第16回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール 6/2開幕!

アメリカ最大の登竜門に亀井聖矢、吉見友貴らが登場

2017年、第15回の優勝者ソヌ・イェゴンのファイナルのステージ
Photo: Ralph Lauer

文:高坂はる香

 数ある国際ピアノコンクールのなかでも、世界のトップでの活動を目指す若者たちにとって、“優勝したらコンクール生活を卒業するきっかけ”となるコンクールというものがいくつかあります。その筆頭は、世界三大コンクールとされる、ショパン、チャイコフスキー、エリザベートコンクール。これに加えてやはり特別な位置付けにあるが、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールです。日本では、2009年に辻井伸行さんが優勝(ハオチェン・チャンさんと同位)したことで話題となりました。

 テキサス州、フォートワースで4年に一度行われているこのコンクール。冷戦中のソ連で開催された第1回チャイコフスキーコンクールで優勝したアメリカ人、ヴァン・クライバーンの名を冠し、その優勝からわずか4年後の1962年に創設されました。当時のクライバーンさんはまだ27歳の若さですから、その快挙がどれほどアメリカで重要視されていたかが窺えます。

1958年、オープンカーに乗ってブロードウェイを凱旋パレードするクライバーン

 フォートワースは、20世紀はじめに石油が発見されて経済成長を遂げ、富裕層が多いことで知られる都市で、コンクールは地元の人々のスポンサーシップによって成り立っています。コンテスタントはボランティアの一般家庭(ほとんどが豪邸)に滞在。期間中にはたびたび華やかなパーティが行われ、なんともアメリカらしい雰囲気です。

 また、入賞者には3年間のマネジメントがつき、コンクール直後からすぐにプロとしての活動の場が用意されるのも特徴です。これが、ここでの優勝を機にコンクールを卒業するピアニストが多い理由のひとつ。もちろん、こうした契約や一度ずつの舞台をより長い活動につなぐことができるか否かは、そのピアニスト次第ですが。

 かつては、優勝の副賞の仕事が逆にハードすぎて、若いピアニストが疲弊してしまうという問題がよく指摘されました。チャイコフスキーコンクール後に大スターとなり、多忙な活動をしたクライバーン自身が、40代半ばには早々に第一線から離れたことと重ね、コンクールが逆に将来ある若手をつぶしていると批判されることも……。そこで近年では事務局も、無理のないスケジュール管理にも注意してコンサートを組んでいるといいます。

 さて、1年の延期の末にこの6月に開催される、今度のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール。去る3月に行われた予備予選の難関をくぐりぬけ、本大会の舞台に立つのは、30名のピアニスト。その顔ぶれは、少数精鋭、ハイレベルです。

 ごく一部をご紹介すると、まず、日本でもすでにファンが多く、今度の挑戦に驚いた方も多いかもしれないのが、ケイト・リウさん。前々回、2015年のショパンコンクール第3位。腕の故障でしばらく演奏活動をお休みしていたこともあり、もう一度キャリアに勢いをつけたい想いがあるのかもしれません。

 話題となった昨年のショパンコンクール参加者からは、ケイト・リウと同じ前々回にファイナリストとなっている、ゲオルギス・オソキンスさん。また、フェデリコ・ガド・クレマさん、ソン・ユトンさん(彼は前回のクライバーンにも参加していました)のお名前も。

 そのほか、藤田真央さんが入賞したチャイコフスキーコンクールで第4位となったティアンス・アンさん、同コンクールに出場していたアンナ・ゲニューシュナさん(ルーカス・ゲニューシャスさんの奥様です)、浜松コンクールに出場していたドミトロ・チョニさん、イリヤ・シュムクレルさんなど、日本のピアノファンにはなじみのなる顔ぶれ。

 そして日本からは、日本音コン優勝以来、国内で大きな注目を集めている亀井聖矢さん、吉見友貴さん、また、日本/フランスからマルセル田所さんと、期待大の若いピアニストたちが参加します。

セミファイナル以降のラウンドが行われるフォートワースのBass Performance Hall外観
Photo: Ralph Lauer

 ステージは、予選(40分のリサイタル)、クオーターファイナル(40分のリサイタル)、セミファイナル(60分のリサイタルとモーツァルトの協奏曲)、ファイナル(協奏曲2曲)と、なかなかヘビーな内容。特にソロはレパートリーがかなり自由なので、選曲からすでに、大いに個性があらわれます。ショパンコンクールで追っていたメンバーのまったく別のレパートリーを聴けるのも楽しみですね。

 ちなみに、ファイナルでは審査委員長で指揮者のマリン・オルソップさんが自ら指揮をするというのがユニークです。彼女はもちろん審査に加わるのだから、結果には共演者としての印象も反映されることになるのかもしれません。

(ちなみに前回のファイナルは協奏曲1曲と室内楽1曲という課題でしたが、従来の協奏曲2曲というルールに戻りました)。

PRELIMINARY ROUND(30人/40分のリサイタル)
2022.6/2(木)~6/4(土)
QUARTERFINAL ROUND(18人/40分のリサイタル)
6/5(日)~6/6(月)
SEMIFINAL ROUND(12人/60分のリサイタルとモーツァルトの協奏曲)
6/8(水)~6/12(日)
FINAL ROUND(6人/協奏曲2曲)
6/14(火)~6/15(水)
6/17(金)~6/18(土)
(日付は現地時間)

Bass Performance Hall Photo:Carolyn Cruz

 今回ももちろんインターネット配信あり。時差は日本のマイナス14時間なので、朝10時からのセッションなら日本時間深夜0時、昼14時半からのセッションは午前4時半、夜19時半からのセッションは午前9時半スタート。ライブで聴くのがちょっと大変なタイムテーブルですが、アーカイヴ配信も活用し、素晴らしいピアニストとの出会いに期待しながらぜひ演奏を聴いてみてください。

 私は今回も現地へ取材に参ります。実はクライバーンコンクールは、アレクサンダー・コブリンさんが優勝した2005年から毎回取材に行っていて、今回が5回目!

 こちらのレポートで、会場の雰囲気やコンテスタントの様子など、現地からお届けしたいと思いますので、どうぞお楽しみに。

(写真提供:The Cliburn)

第16回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール
SIXTEENTH VAN CLIBURN INTERNATIONAL PIANO COMPETITION
2022.6/2(木)~6/18(土)
https://cliburn.org/2022-cliburn-competition/

The Cliburn YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/thecliburn

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/