200年の時を翔る鬼才の深遠
コンスタンチン・リフシッツがトッパンホールで行う「バッハ&ショスタコーヴィチ プロジェクト」は、上半期屈指の注目公演の一つ。1976年ウクライナ生まれのリフシッツは、鬼才と呼ばれる名ピアニスト。鮮やかなテクニックで奥深い演奏を聴かせる彼は、“現代最高のバッハ弾き”とも称されている。
そんな彼の「バッハ」プロは、「7つのトッカータ」と「音楽の捧げもの」。即興的な部分とフーガが並ぶ10分級のトッカータが7曲続いた後に、カノンやフーガが連なる「音楽の捧げもの」を弾く。ここにバッハへの強い自信がうかがえる。実際彼はバッハのフーガを冴えた音色でクリアかつ崇高に表現する。さらには、「音楽の捧げもの」のCD(2005年録音)で、この謎曲をピアノ音楽としてごく自然に紡いでいる点にも驚かされる。それゆえ脂が乗った今の彼のバッハに寄せる期待は大きい。
「ショスタコーヴィチ」では日本の精鋭たちが共演する。まずは深化著しい山根一仁とのヴァイオリン・ソナタ。リフシッツに触発された山根が、いつにも増して鮮烈なソロを奏でる場面が目に浮かぶ。次は世界的名手による全曲の生演奏を聴けること自体が貴重な「24の前奏曲」。多様な掌編が続くこのピアノ曲では、透徹した音による詩情豊かな音楽を堪能できるだろう。最後は、山根と東亮汰(ヴァイオリン)、川本嘉子(ヴィオラ)、遠藤真理(チェロ)とのピアノ五重奏曲。重厚さと抒情性を併せ持つ作曲者随一の室内楽曲だ。ここはむろんスリリングで濃密な競演が展開されること必至。この充実の2夜は、ぜひとも通して味わいたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年5月号より)
Ⅰ J.S.バッハ―ソロ
2022.5/30(月)
Ⅱ D.ショスタコーヴィチ―室内楽&ソロ
6/2(木)
各日19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com