諏訪内晶子(ヴァイオリン)

バッハ、ブラームス、クラシックとモダンの対比
実力者が集う多彩で充実した音楽祭

(C)TAKAKI KUMADA

 世界的ヴァイオリニスト、諏訪内晶子が芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON 2022」が、2〜3月に開催される。同音楽祭も今年で7回目。諏訪内は2012年の立ち上げから企画のすべてに関わってきた。

 「あっという間でしたね。特に最初期のマスタークラスを受講した上野通明さんや辻彩奈さんの活躍を見ると10年の速さを実感しますし、多くの方の協力を得ながら前進し続けることの意義も感じています。確かに芸術監督は時間もエネルギーも相当必要です。でも演奏だけの場合とは充実感が全然違いますし、音楽祭で意見交換を重ねた演奏家との信頼関係が、別の機会に生かされることもあります」

 今回まず彼女のソロ・リサイタルは、J.S.バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会。最新CDと連動した企画だ。
 「もともとは、20年弾いていたストラディヴァリウスのドルフィンを2020年に返却するので、その前にバッハの無伴奏を録音する計画だったのですが、コロナ禍で延期に。しかし2020年10月にグァルネリ・デル・ジェズの素晴らしい楽器を手にし、せっかくの出会いなので、楽器に多少慣れた昨夏に録音しました。録音もそうですが、バッハの無伴奏全曲を通して弾くのは今回が初めて。まぁ時期が来たという感じでしょうか。バッハは今の時代にあってもその先を行っていますし、どんな奏法や解釈でも魅力を出せる音楽。私はモダンの楽器と弓を用いて、現代の奏法で演奏します」

 楽器による変化は、今回全体の注目点でもある。
 「まったく性格が違います。以前のストラドは大きく、今度のデル・ジェズは小さめ。ストラドは音自体が完成されていて、それを引き出すのが奏者の役割ですが、デル・ジェズは奏者が弾き込み、音をイメージしないとうまく鳴りません。その分ヴィブラートや右手の奏法など奏者の技術が反映される人間的な楽器です」

 次いでオーケストラ公演では、尾高忠明指揮NHK交響楽団とともに、デュティユーの「同じ和音の上で」とブラームスの協奏曲を演奏する。

 「モダンとクラシックの対比プログラム。デュティユーの曲は晩年に書かれた哲学的・内面的な音楽で、濃い内容がコンパクトに凝縮されています。ブラームスは名曲中の名曲。17歳くらいから演奏していますが、楽器が変わると新しい曲を弾いているような気がします。またN響デビューが昭和最後の日、N響定期デビューが尾高先生との共演でした。今回で3つの年号にわたる共演となり、しかも指揮が尾高先生なのでとても楽しみです」

 室内楽プロジェクトはまず「Akiko Plays CLASSIC with Friends」と同「MODERN」を開催。前回も皆を唸らせた対比プログラムを内外の実力者とともに披露する。

 「今回は“女性作曲家”がひとつのテーマ。CLASSICで取り上げるメンデルスゾーンの姉ファニーは優れた作曲家で、弦楽四重奏曲はすごく激しい作品、クララ・シューマンのロマンスは綺麗な曲です。最後のフランクのピアノ五重奏曲も女性に関連した曲で、MODERNでこれに対応するのが、女性作曲家バツェヴィチのピアノ五重奏曲。彼女も筋の通った作曲家で、自身ヴァイオリニストでした。さらにMODERNでは、フランスで活躍されている望月京さんに委嘱した新作も楽しみです」

 もう一つ「ブラームス 室内楽マラソンコンサート」もある。弦楽四重奏曲を除く三重奏以上の室内楽作品全14曲を1日(3公演)で演奏する驚きの企画だ。

 「これは音楽祭でこそ可能な公演です。ブラームスはシビアな人で室内楽曲も内向的。彼に妥協という言葉はなかったと思います。そういう作曲家は滅多にいませんので、たっぷりと浸るのもいいのではないでしょうか。また本公演には、優秀な若手日本人演奏家が多く参加しますし、ヨアヒムが設立したベルリン芸術大学で教えているヴァイオリンのマーク・ゴトーニと、チェロのイェンス=ペーター・マインツも出演する予定。2人とも室内楽は特に素晴らしい奏者です」

 このほか諏訪内とゴトーニが講師を務める「公開マスタークラス」、陸前高田市での「東日本大震災復興応援コンサート」、愛知での「ミュージアム・コンサート」も開催される。すべてが興味深い本音楽祭。どの公演にも足を運びたい思いひとしおだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年2月号より)

【Profile】
1990年、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門審査員。また、国際音楽祭NIPPONを企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。デッカより14枚のCDをリリース。使用楽器は、日本にルーツをもつ米国在住のDr.Ryuji Uenoより長期貸与された1732年製作のグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」。

Information
国際音楽祭NIPPON 2022

諏訪内晶子 ヴァイオリン・リサイタル 〜J.S.バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ 全曲演奏会(全2回)〜
2022.2/11(金・祝)、2/13(日)各日14:00 愛知/三井住友海上しらかわホール
2/16(水)、2/18(金)各日19:00 東京オペラシティ コンサートホール

尾高忠明指揮 NHK交響楽団 諏訪内晶子(ヴァイオリン) 
2022.2/21(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

公開マスタークラス(ヴァイオリン部門) 
2022.3/3(木)、3/4(金) 神奈川/フィリアホール

東日本大震災復興応援コンサート in 陸前高田 〜諏訪内晶子&フレンズ〜
3/6(日)14:00 岩手/陸前高田市民文化会館(奇跡の一本松ホール)

諏訪内晶子 室内楽プロジェクト 〜Akiko Plays CLASSIC & MODERN with Friends〜
Akiko Plays CLASSIC with Friends 2022.3/9(水)19:00 紀尾井ホール
Akiko Plays MODERN with Friends 2022.3/11(金)19:00 紀尾井ホール

ミュージアム・コンサート 
2022.3/12(土)19:00 愛知/トヨタ産業技術記念館 エントランス・ロビー

ブラームス 室内楽マラソンコンサート
2022.3/13(日) 〈第1部〉10:30 〈第2部〉13:30 〈第3部〉19:00 東京オペラシティ コンサートホール

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp/special/imfn/