江原啓之(バリトン)

ウィットとユーモア溢れるハートフルな現代オペラに出演

 バリトン歌手だが、各メディアから引っ張りだこの人気スピリチュアリストでもある。特に近年はコロナ禍で不安を抱えた人々を元気にするような助言をたくさん与えてきた江原啓之。

 「やはりこんな時代だからこそ、音楽の力が必要なのだと感じますね」

 2000年から本格的に歌手活動を開始。18年には木下順二のオペラ《夕鶴》をスピリチュアリズムの観点から紐解き、5公演を主催し、自ら「運ず」役を演じて好評を博したのも記憶に新しい。

 「《ラ・ボエーム》だと家主のベノアとか、ムゼッタのパトロンのアルチンドロみたいなクセのあるユニークな役どころが好きです。音楽的には《トスカ》のスカルピアのような悪役とか、かっこいいヴェルディ・バリトンに憧れるのですが(笑)」

 22年2月には日本オペラ協会公演《ミスター・シンデレラ》への出演が決まっている。同作は01年に鹿児島で初演されてから再演を重ね、17年には同協会が室内オペラ版でも上演。今回は演出を一新し、新宿文化センターに合わせて編曲上演される。ストーリーは奇想天外で、主人公の伊集院正男(テノール)は、特殊な栄養ドリンクを間違えて飲んでしまい、潮の満ち引きの作用によって美しい赤毛の女性に変身し、騒動を巻き起こす。

 「単に面白いだけの“男女入れ替わり”物語ではないんです。荒唐無稽のようでいて“真実の愛とは、幸せとは”について深く考えさせられるし、人の心の様々な迷いに光があたるハートフルな作品だと思います。うだつの上がらない、夫婦仲も危うい正男さんが最後に究極の選択をするのですが、それがすごく感動的です。詳しくは言わないけれど、結局は他の人を気にせずに、自分の人生を肯定できる人がハッピーになれるってことを教えてくれます」

 本作で江原が演じるのは“薩摩隼人”な性格の、正男の父親・忠義。

 「“男は仕事、女は家庭”が口癖のような、ふだん私が講演会や書籍でお伝えしているのとは真逆のキャラクター(笑)。そのギャップを楽しみながら演じたいです」

 作曲・音楽監督は、吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」などで世界的に知られる伊藤康英。今回は台本の高木達(とおる)が自ら演出を手掛けるのも注目ポイントだ。

 「伊藤先生の音楽は、拍子がすぐ変わったりして複雑な面もあるけれど、バーンスタインのミュージカルみたいに耳になじみます。郷土色溢れる『おはら祭り』のシーンなどもお楽しみに。美しい言葉と和の所作が生きる日本語オペラの魅力を、若い世代にももっと知ってほしい。そのための架け橋になれたら嬉しいのです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2022年1月号より)

日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.83 《ミスター・シンデレラ》(新制作)
2022.2/19(土)、2/20(日)各日14:00 新宿文化センター
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874 
https://www.jof.or.jp
*江原啓之は2/19公演に出演。配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。