日本を代表する2つのオケがワーグナーとプッチーニのオペラで競演

文:山田治生 

 「東京・春・音楽祭」のメインはオペラに違いない。オペラは舞台で演じ歌われる“総合芸術”だが、東京春祭では一貫して“演奏会形式”での上演を行ってきた。そこではオペラは“観るもの”というよりも“聴くもの”となる。オーケストラも舞台にあがり、演出にとらわれることなく、音楽に集中して楽しめるから、作曲家が書き残した楽譜が隅々まで味わえる。それが東京春祭のオペラである。

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13
《ローエングリン》(演奏会形式/字幕付)

 「東京春祭ワーグナー・シリーズ」は、東京春祭とNHK交響楽団とのコラボレーションとして、2010年に《パルジファル》で始まった。《さまよえるオランダ人》以降の10作のオペラを順次上演し(20年の《トリスタンとイゾルデ》は中止)、17年には『ニーベルングの指環』四部作を完結。現在は2巡目に入り、vol.13となる22年は《ローエングリン》が取り上げられる。すっかり、東京春祭のメイン・イベントとして定着している。

左:マレク・ヤノフスキ 右:NHK交響楽団

 《ローエングリン》は、18年以来の上演(11年にはアンドリス・ネルソンスの指揮で上演する予定であったが、東日本大震災の影響で中止となった)。18年のときは、ウルフ・シルマーが指揮を執り、ローエングリンをクラウス・フロリアン・フォークトが歌った。22年は、マレク・ヤノフスキが振り、ヴィンセント・ヴォルフシュタイナーがタイトル・ロールを歌う。ヤノフスキはいうまでもなく現代最高のワーグナー指揮者の一人であり、東京春祭の『ニーベルングの指環』(2014〜2017)を手掛けただけでなく、16、17年にはバイロイト音楽祭の『指環』の指揮も担った。また、22年に83歳になるマエストロとN響は共演を重ね、強い信頼感で結ばれている。

 《ローエングリン》ストーリーは、弟殺しの嫌疑を受けた公女エルザが、白鳥の騎士ローエングリンによって助けられ、騎士と結婚することになるが、エルザは尋ねてはならない騎士の素性を質問してしまうというもの。本作中の〈婚礼の合唱(結婚行進曲)〉は誰もが聴いたことがあるに違いない。

左より:ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(ローエングリン)、マリータ・ソルベルグ(エルザ)、エギルス・シリンス(テルラムント)、エレーナ・ツィトコーワ(オルトルート)

 ローエングリンを歌うヴィンセント・ヴォルフシュタイナーはミュンヘン出身。近年、ベルリン国立歌劇場やウィーン国立歌劇場にもデビューした俊英。エルザのマリータ・ソルベルグ はノルウェー出身。ノルウェー国立オペラのほか、ウィーン国立歌劇場でも歌っている。テルラムントのエギルス・シリンスは18年に続いての同役での再登場。オルトルートは、新国立劇場での活躍など、日本でもお馴染みのエレーナ・ツィトコーワが歌う。

※当初出演を予定していたマリータ・ソルベルグは、健康上の理由により出演ができなくなりました。代わりに、ヨハンニ・フォン・オオストラムが出演します。(2/4主催者発表)  

東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.3
《トゥーランドット》(演奏会形式/字幕付)

 東京春祭と読売日本交響楽団とのコラボである「東京春祭プッチーニ・シリーズ」は、2020年に『三部作』で始まり、21年に《ラ・ボエーム》を上演する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2年連続で中止された。つまり、vol.3となっている22年の《トゥーランドット》が実質的な初回となる。

 《トゥーランドット》は、プッチーニの最後のオペラであり、未完のまま遺された。現在は、アルファーノによる補筆完成版で演奏されることがほとんどである。いにしえの中国、氷のような心を持つトゥーランドット姫に一目惚れしたカラフが、彼女の花婿になるために3つの謎解きに挑戦し、それを解き明かすというストーリー。カラフが歌うアリア〈誰も寝てはならぬ〉は、かつてパヴァロッティの録音が大ヒットし、イギリスのシングル・チャートのトップになったという名曲。

左より:リカルダ・メルベート(トゥーランドット)、ステファノ・ラ・コッラ(カラフ)、セレーネ・ザネッティ(リュー)

 トゥーランドット姫には、すべてを圧するようなパワフルな声が求められるが、今回は、ドイツ出身のリカルダ・メルベートが歌う。彼女はウィーン国立歌劇場の専属歌手を務めたあと、バイロイト音楽祭でも活躍。新国立劇場では、《タンホイザー》のエリーザベト、《ローエングリン》のエルザ、《さまよえるオランダ人》のゼンタ、《ばらの騎士》の元帥夫人、《フィデリオ》のレオノーレなど、ドイツのレパートリーを披露してきた。今回、イタリア・オペラで、どのようなトゥーランドットを聴かせてくれるのか、興味津々である。

 カラフは、イタリア、トリノ出身のステファノ・ラ・コッラ。15年のシャイー指揮スカラ座の《トゥーランドット》でカラフを歌い、大きな成功を収めた。17年のシカゴ・リリック・オペラでのアメリカ・デビューもカラフ役であった。大いに期待できそうだ。カラフに片思いするリューは、イタリア出身の新進気鋭のソプラノ、セレーネ・ザネッティ。

 指揮のピエール・ジョルジョ・モランディは、スカラ座の首席オーボエ奏者を経て、指揮者となった。かつて東京二期会にもしばしば客演。膨大なイタリア・オペラのレパートリーを持つマエストロだけに、《トゥーランドット》の指揮も楽しみである。

左:ピエール・ジョルジョ・モランディ 右:読売日本交響楽団

 オペラは声の饗宴だが、《ローエングリン》も《トゥーランドット》も、非常に多彩な管弦楽法が用いられていて、オーケストラだけでもかなり聴き応えがある。《ローエングリン》の第1幕への前奏曲や第3幕への前奏曲は単独でも演奏される名曲。《トゥーランドット》は、合唱の入るそれぞれの幕の大詰めが圧倒的な迫力である。N響、読響という日本を代表する2つのシンフォニー・オーケストラのオペラでの競演は聴き逃せない。

【Information】
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13《ローエングリン》(演奏会形式/字幕付)
2022.3/30(水)17:00、4/2(土)15:00 東京文化会館 大ホール
●出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ローエングリン(テノール):ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー
エルザ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
テルラムント(バス・バリトン):エギルス・シリンス
オルトルート(メゾ・ソプラノ):エレーナ・ツィトコーワ
ハインリヒ王(バス):タレク・ナズミ
王の伝令(バリトン):リヴュー・ホレンダー
ブラバントの貴族:大槻孝志、髙梨英次郎、後藤春馬、狩野賢一
小姓:斉藤園子、藤井玲南、郷家暁子、小林紗季子
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
●曲目
ワーグナー:歌劇《ローエングリン》(全3幕)
[ 上演時間:約4時間20分(休憩2回含む)]
●料金(税込)
S¥23,000 A¥18,500 B¥14,500 C¥11,000 D¥8,000 E¥5,000
U-25¥2,500(U-25チケットは2022.2/17(木) 12:00発売)

※当初出演を予定していたマリータ・ソルベルグは、健康上の理由により出演ができなくなりました。
 代わりに、ヨハンニ・フォン・オオストラムが出演します。(2/4主催者発表) 

東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.3《トゥーランドット》(演奏会形式/字幕付)
2022.4/15(金)18:30、4/17(日)15:00 東京文化会館 大ホール
●出演
指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
トゥーランドット(ソプラノ):リカルダ・メルベート
カラフ(テノール):ステファノ・ラ・コッラ
リュー(ソプラノ):セレーネ・ザネッティ
ティムール(バス・バリトン):シム・インスン
皇帝アルトゥム(テノール):市川和彦
ピン(バリトン):萩原 潤
パン(テノール):児玉和弘
ポン(テノール):糸賀修平
役人(バリトン):井出壮志朗
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:宮松重紀
児童合唱指揮:長谷川久恵
※当初予定しておりました出演者より変更となりました。
●曲目
プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》(全3幕)
●料金(税込)
S¥23,000 A¥18,500 B¥14,500 C¥11,000 D¥8,000 E¥5,000
U-25¥2,500(U-25チケットは2022.2/17(木) 12:00発売)

【来場チケット販売窓口】
●東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービス(web。要会員登録(無料))
https://www.tokyo-harusai.com/ticket_general/
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)