日本発のファンタジックなオペラ、作曲者の指揮で再演
びわ湖ホール芸術監督を務めている指揮者の沼尻竜典が、同ホールのシリーズ「オペラへの招待」の一環で、“日本最古の物語”を題材に、自ら作曲・台本を手掛けた《竹取物語》の3度目となる上演に臨む。ドイツの名門・リューベック歌劇場の音楽総監督も務めるなど、オペラの世界を知り尽くしたマエストロの“新作”として、大きな話題をさらった初演から8年。「読み込んでゆくほど、日本的な詩情に溢れていることに、改めて感銘を受ける」(沼尻)という物語に、また新たな命が授けられる。
歌劇《竹取物語》は横浜みなとみらいホールからの委嘱作品で、2014年1月に沼尻自身の指揮により、演奏会形式で初演。翌年2月にベトナム・ハノイで上演され、8月には栗山昌良演出により、初めて舞台形式で上演された。一幕5場のオペラは、和歌のやり取りを通じて心を通わせるかぐや姫と帝の感情の機微を、精細な描写によって展開していく。巨匠・三善晃に師事し、作曲を専攻していた沼尻は「いつかはオペラを書いてみたいとの思いを、学生時代から抱いていた」という。
「日本文学の代表とも言える《竹取物語》には“月からの使者”“雲が浮いている”など、SF映画のような表現が用いられています。その巧みな情景描写は、スピルバーグの有名な映画『E.T.』の800年前に作られていることを思えば驚きです」と沼尻。作曲にあたっては「聴衆の印象に残る親しみやすさ、スピード感ある展開」を重視する一方で、「“ドリフ世代”である私には身近なギャグやコントのセンスも採り入れて、オペレッタのような雰囲気を出したかった」とも。さらに、音楽自体は「メロディーが良く、歌詞に魂がある昭和の時代の歌謡曲を意識し、なるべく言葉を絞り込んだ」と明かす。
「ソプラノ・リリコでコロラトゥーラの要素も入った声質を念頭においた」という主役のかぐや姫は、初演から演じ続けている幸田浩子に、今回は砂川涼子が加わってのダブルキャスト。幸田は初演の折に「《竹取物語》は難しい知識がなくても伝わり、世界中の人々が気持ちを共有できるはず。日本の文化って、自然っていいなと感じていただける作品になれば…。かぐや姫を通じて、“日本の心”を伝えていきたい」と語っていた。
そして、迎肇聡(翁)や森季子(媼)、松森治(帝)ら、びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバーによる主要キャストに加えて、晴雅彦(大伴御行)や八木寿子(月よりの使者)と関西が誇る実力派ソリストが、進行の上で重要な役回りを演じ、物語の骨格を形づくる。また今回は、栗山の原演出に基づき、中村敬一が演出補を務め、オーケストラをピット内ではなく、舞台上に配置してのセミ・ステージ形式に。沼尻のタクトのもと、これをしっかりバックアップするのは、日本センチュリー交響楽団。初演を担当したトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアよりも弦楽器を増やし、いっそう豊潤なサウンドを目指す。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2021年12月号より)
2022.1/22(土)、1/23(日)各日14:00
びわ湖ホール 大ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp/