赤松林太郎(ピアノ)

私の指の中にはオーケストラがある

 常にこだわりのプログラムで特有の世界を披露している赤松林太郎が、11月にリサイタルを開く。前半はドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、ワーグナー「ジークムントの愛の歌」、マーラー「交響曲5番よりアダージェット」、J.S.バッハ「シャコンヌ」の編曲版で、後半がリストだ。

 「コロナ禍でさまざまな困難に遭遇するなか、自分にとって本当に大事なものは何かと考えた結果、多くのものをそぎ落とし、“音楽のために生きる”ことに心が決まりました。こういう時期でも大学で教えることを含め、室内楽も増え、幸いなことに多忙な毎日を送ることができています。そのなかでリサイタルのプログラムを熟慮し、リストをもう一度きちんと弾こうと思ったわけです」

 リストは「孤独の中の神の祝福」「グノーの歌劇《ファウスト》からのワルツ」「慰め第3番」「ラ・カンパネッラ」という選曲。赤松は偉大なピアニストのミハイル・ヴォスクレセンスキー、フランス・クリダ、ジャン・ミコー、ゾルターン・コチシュらに師事し、演奏のテクニックのみならず精神性に大きな影響をおよぼすこと、また人間性を形成する上で大切なことなどを学んだ。

 「とりわけクリダ先生からはリストの神髄を注ぎ込まれました。リストを演奏するのはもちろん大変で、“心・技・体”がそろっていないと弾けません。でも、私の血肉となっている作曲家ですので、今回は“わが血肉よ、リストで目覚めよ!”と思って弾きます(笑)」

 赤松は子どものころからオーケストラのサウンドの中で育ってきた。前半に登場するのは、旋律がよく知られている作品ばかり。それらをピアノ1台で美しく響かせる。

 「メロディを追いかけて聴いていただければと思います。“私の指の中にはオーケストラがある”と感じていますので、ピアノの魅力を通して聴き手へと届けたい」

 そしてヨーロッパ留学時代にさまざまな土地で学び、その経験が蓄積され、いまや演奏が存在感を放つ肉厚なものとなっている。

 「いまもヨーロッパの音楽家や音楽祭、音楽院などの関係者とは連絡を取り合っています。コロナ禍で海外での公演は延期となっていますが、夢は諦めないつもり。ヨーロッパでもマスタークラスを継続したいし、仲間たちとも再会したい。偉大な恩師から受けた教えを次世代へ伝えたいと考えていますし、自宅のスタジオから動画も発信したい。いまは音楽だけに真摯に対峙する生活で、それが私の生き方です。今回は一音一音を無駄にせず、心から音楽と向き合います」

 熱く深く雄弁に語ることばから音楽への情熱がほとばしる。それが舞台で炸裂する。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2021年11月号より)

赤松林太郎ピアノリサイタル ~祈りの響き ラ・カンパネッラ~
2021.11/23(火・祝)14:00 東京文化会館(小)
問:Ro-Onチケット047-365-9960
https://www.rintaro-akamatsu.com