INTERVIEW 百々あずさ & 小埜寺美樹 & 鳥木弥生

DOTオペラによる《アイーダ》セミ・ステージ上演

左より:百々あずさ、小埜寺美樹、鳥木弥生
(C)FUKAYA Yoshinobu/auraY2

取材・文 室田尚子

 ソプラノ百々あずさ(どどあずさ)、ピアノ小埜寺美樹(おのでらみき)、メゾソプラノ鳥木弥生(とりきやよい)の3人の頭文字をとって「DOTオペラ」。昨年11月に府中の森芸術劇場で第1回公演を行ったこのユニットが、いよいよ《アイーダ》の舞台上演にチャレンジする。実は第1回も《アイーダ》のピアノ伴奏による演奏会形式公演だったが、今回はミューザ川崎シンフォニーホールで小編成のオーケストラを入れ、演出・衣裳・装置もあるセミ・ステージ上演だ。

小埜寺 コロナ禍のなかで生まれたディスタンスを取ったオペラ上演のスタイルも、この1年半でようやく形になってきました。この新しいスタイルを継続して残していくということも必要なのではないか、というのが第一の目的です。オーケストラは6型を基本に管楽器は無し。ピアノと打楽器、シンセサイザーが入る形で、より小さいホールでも上演できるようになっています。舞台上にオケを置き、その周りを取り囲むように歌手のアクティングスペースを設けます。合唱はコロナ禍でもっとも影響を受けており、そんな合唱団の力になりたいという思いから、東響コーラス有志による90名の合唱団を組織し、普段はP席として使われている座席を中心に市松模様で配置することにしました。

昨年の公演より 左から:町 英和、吉田珠代、百々あずさ、鳥木弥生、小埜寺美樹、与儀 巧、伊藤貴之

鳥木 演出の山口将太朗さんとは、私が2017年に出演した4都市上演の全国共同制作オペラ《蝶々夫人》で出会いました。もともとダンサーでもありますが、音楽と作品をとても尊重していて、ミニマムなスタイルの中でも印象的な舞台をつくることのできる人。《アイーダ》では舞台全体をどう見せるか、というのがとても大切ですが、その点でも彼は適任者だと思います。

小埜寺 ディスタンスを取ることで良い点も見えてきました。それは、歌の素晴らしさが全面に出る、というオペラの原点に立ち戻ることができたことです。歌手のみなさんにとってはシビアな状況ともいえますが、逆に素晴らしい歌手にとって距離は関係ない、ということがよくわかるのです。また演出家にとっても、どのようにすればキャラクターがイキイキとするのか、という腕の見せどころでもある。観ているお客様が距離を感じないような、そんなオペラをつくりたいと思っています。

山口将太朗

《アイーダ》の面白さと難しさ

 豪華さや重厚さの点で祝祭的な作品と捉えられがちな《アイーダ》だが、3人はヴェルディの人物造型やドラマとしての奥深さがこの作品の魅力だと考えているようだ。

百々 実は喉の負担という点でいえば、《蝶々夫人》よりも《アイーダ》の方が重くないので、意外に疲れないんです。多分ヴェルディはオペラ歌手の事をよく知った上で作曲したのだと思います。

小埜寺 ヴェルディは母音の使い方など、歌うときに無理がないような音が選ばれているので、歌い手にとってはプッチーニよりも歌いやすいかもしれません。

百々 むしろ私は、アイーダという女性の純粋さや可憐さをどう表現するのかが課題だと思っています。

鳥木 前回の演奏会形式上演で初めてアムネリスを歌ったんですが、ヴェルディ作品に登場するキャラクターのなかでも特に人物造型が深く、音楽と物語がよりドラマティックに結びついていて、とても歌い甲斐があると感じました。メゾソプラノはヒロインの敵役を歌うことが多くて、私は敵役というのはそれほど深くなくていい、気持ちよく憎まれればいい人だと思っていたんですが、アムネリスはそんなに単純じゃないことに気づいたんです。ですので、堂々とアイーダに対抗していこうと思います(笑)

小埜寺 《アイーダ》のドラマには、国と国、宗教と宗教の対立という歴史的背景があります。敵対する陣営に属するアイーダとラダメスの間に立ちはだかるものがほかの作品に比べて桁違いに重い。だからこそ、ふたりは死を選ばなければならなかったわけで、この重さ、深さを表現するのがこのオペラの最大の焦点です。

昨年の公演より 百々あずさ
昨年の公演より鳥木弥生

歌手2人にピアニストという絶妙のバランス

 3人それぞれの出会いはかなり以前にさかのぼる。百々が国立音楽大学1年生の時の合唱の授業でピアノを弾いていたのが小埜寺。そして百々と鳥木は、お互いイタリア留学中にコンクールで何度か一緒になったのが出会い。そんな3人が一緒にオペラをやろうという話になったのは、SNSでベトナム料理を食べにいく話が盛り上がったのがきっかけだとか。

百々 その時に《アイーダ》やりたいねえ、という話になりまして。

小埜寺 歌い手がやりたいことをいかに実現の方向にまとめていくのか、というのがコレペティートルである私の役割だと思っているので、「よし」と腕をまくりました。

鳥木 そもそも歌手が集まればあれやりたい、これやりたいっていうのは普通なんだけど、美樹ちゃんはなんで仲間になってくれたの?

小埜寺 それはお酒が大好きという共通点があるからですね(笑)

 歌い手ふたりが「この人とやりたい」と思い、それにコレペティートルが加わって動き出した企画。この絶妙のバランスがDOTオペラの持ち味だろう。3人が知恵と勇気(?)を振り絞って作り上げた企画の「集大成」だという今回の《アイーダ》。S席5000円というオペラにしては破格のリーズナブルさも魅力だ。ぜひひとりでも多くの人に足を運んでほしい。

【Information】
DOTオペラ ヴェルディ:歌劇《アイーダ》
(全4幕/セミ・ステージ形式・オーケストラ小編成版、字幕付)


2021.11/16(火)17:30 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:佐藤 光
演出:山口将太朗

アイーダ:百々あずさ
ラダメス:村上敏明
アムネリス:鳥木弥生
アモナズロ:高橋洋介
ランフィス:伊藤貴之
エジプト国王:松中哲平
伝令:所谷直生
巫女:やまもとかよ

合唱:Coro trionfo(東響コーラス有志による合唱団)
管弦楽:アイーダ凱旋オーケストラ

料金(全席指定・税込):S席:5,000円 A席:4,000円

問:有限会社ポニーミュージカルアカデミー / DOTオペラ 080-4420-4960  
  dotoperaaida@gmail.com
Twitter @dot_opera_
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=3034

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