須藤慎吾(バリトン)

同級生のスゴい顔ぶれ、彩り豊かな男声の至芸に酔う

 すぐれたキャストでオペラ公演を重ねているフィオーレ・オペラ協会。設立15周年を記念した「秋のコンサート vol.2」にも、ほとんどの公演で歌ってきたバリトンの雄、須藤慎吾をはじめ錚々たる面々が登場する。テノールの所谷直生、中村元信、村上敏明、渡邊公威、バリトンの鶴川勝也、バスの斉木健詞。

 しかも、「国立音大1992年入学、男性陣によるアリア、重唱の競演」というから驚く。同級生に人材が豊富なこと!

 「テノールが多く一人ひとり特徴が違う。みな学生時代からマニアで、村上君はデル・モナコが大好きで、渡邊君はパヴァロッティのような音楽観。所谷君はディ・ステーファノをめざし、中村君は我々のなかではアイドル的存在で、声がすごかった。人材がバラエティに富んでいました。指揮の仲田淳也君も同じ学年のピアノ科で、移調やテンポ感も初見で仕上げられる技量がありました」

 彼らの演奏をみな味わえるだけでも、興味津々のコンサートである。フィオーレの公演への出演経験者ばかりで、須藤は「100パーセント、私が誘いました。『92年入学でよかったな』というのが、みんなの共通の気持ちです」と語る。

 その須藤はコンサートで、ドニゼッティ《愛の妙薬》、ワーグナー《タンホイザー》、ヴェルディ《オテロ》からアリアや重唱を歌うが、これまた多彩なこと!
 「旧知の彼らが、これやろう、あれやろう、と言い合って決まったんです」

 しかし、これだけ異なる曲を事もなげに歌えるのが須藤だ。事実、フィオーレの公演で歌ったオペラも《椿姫》《ルチア》《こうもり》《夕鶴》《ドン・ジョヴァンニ》《カルメン》など多岐にわたる。

 「帰国後間もなく、代表でソプラノの西正子さんと出会って以来ですが、イタリアでレパートリーを増やしていたので、こなせました。時々演出にも関わったことも大きな糧になったし、オーケストラや合唱に、オペラを本当に愛している方が多いので、モチベーションが上がるありがたい存在です」

 レクチャーコンサートなどを通し、オペラ振興にも注力してきたフィオーレ・オペラ協会。リピーターが多いのは、舞台からオペラの魅力が強く発信されている証しだ。

 「来年3月には、私が代表を務めるグループ、オペラノートとフィオーレのコラボで、若手を起用してビゼー《真珠採り》を上演します」

 コロナ後のオペラ振興のためにも、若手に機会を与えてくれて頭が下がる。だが、その前にこのコンサートではベテランの至芸に酔うことができ、しかもライブ録音され、来年4月にはCDが発売されるから、何度でも余韻に浸れる。オペラのひきだしが多彩である。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2021年10月号より)

フィオーレ・オペラ協会 設立15周年記念フェスティヴァル
秋のコンサート vol.2 〜フィオーレより感謝をこめて〜
2021.10/12(火)19:00、10/13(水)14:00 豊洲シビックセンターホール
問:フィオーレ・オペラ協会050-5360-0504(岡田) 
https://fioreopera.org