京響がなぜ評判がいいのか、聴いていただければわかります
2008年広上淳一が常任指揮者に就任して以来、京都市交響楽団は大きく飛躍したと評判だ。彼は果たして何をしたのだろうか?
「実は何もしてないのですよ。スパルタ的な練習もしていないですし、ただ信頼関係を築くことに力を注ぎました。彼らの潜在能力を信じ、私ができない場合は『助けてくれ』と言う。ただ、オーケストラに入った意味や音楽をする幸福感を今一度考えてもらう。そうしたメンタルな部分には時間をかけましたね。そしてすぐには結果を求めない。すると皆の意識が変わり、2年前くらいから効果が出始めました」
その結果「定期会員は就任時と比べて2倍になり、昨年1月から完売公演が続いている」というから凄い。では現在の京響の特徴は?
「音楽的なオーケストラになりました。毛細血管の隅々まで優しい音がします。それはひ弱な優しさではなく、互いに聴き合い、自発的に音楽を届ける喜びを感じながら演奏しているということ。いまメンタルが充実した楽団としては、日本で唯一無二でしょう。でもその独特のサウンドは、会場に足を運んで聴いていただく以外、お伝えできないですね」
3月の東京公演は、それを知る絶好の機会。しかも4年ぶりだ。
「力を付け、待ち望まれる状態になるまで東京公演をしないのが私の考えでした。今回は、ここまでくれば成長した部分を披露できる、自然体で音楽する京響を知って欲しいとの思いで公演を行います。ともかく絶対に満席にしたい!」
メイン演目は、マーラーの交響曲第1番「巨人」。
「京響でマーラーを振るのは初めて。今の京響のレベルならばこの曲で勝負したいと考えました。『巨人』は、マーラーの中では異質の、実験工房的な部分が魅力。パワー、繊細さ、アンサンブル…など一つひとつ丁寧にクリアしていく京響の姿を聴いてもらいたいと思います」
ロシアの名手ルガンスキーがソロを弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も大注目だ。
「2009年に札響で彼とこの曲を演奏したとき、こんな天才はいない! と思いました。彼は“超一流のオーソドックス”。だからピアノの学生さんもぜひ聴いて欲しい。技術だけでなく、ほのぼのとした優しさもあって、今の京響にもピッタリです」
彼は京響との契約を次年度から3年延長し、トータルで9年の長さになる。「充実した長さでないと意味がない」し、「新たな魅力を掘り起こすため」に、高関健が常任首席客演、下野竜也が常任客演の形で加わる。そして「京響がここまで成長したことは、私の指揮者人生の金字塔。メンバーやスタッフの努力に深く感謝したい」と語る。
同演目で行う京都の定期はすでに完売。「公演前にロビーにて京都ならではの趣向もある」とのことだし、その金字塔を聴くためにも、東京公演にぜひ足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年3月号から)
★3月16日(日)・サントリーホール
問:AMATI 03-3560-3010
京都市交響楽団075-711-3110