INTERVIEW 太田弦 新しい時代へ誘う音楽の冒険

INTERVIEW 太田弦

©︎ai ueda

 32歳にして九州交響楽団首席指揮者、仙台フィルハーモニー管弦楽団指揮者という2つのポストを務める太田弦。フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2026では神奈川フィルとともに、アイヴズ、グルダ、サン=サーンスという個性的なプログラムに挑む。珍しい作品から名曲「オルガン付き」へ――。レパートリーへの尽きない好奇心と、音楽へのまっすぐな情熱を語った。

 フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2026の神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏会を指揮するのは、九州交響楽団首席指揮者で仙台フィルハーモニー管弦楽団指揮者も兼務する、太田弦。サマーミューザへは、昨年の九州交響楽団との演奏会に続いての出演である。

 「フェスタサマーミューザへの出演は、これで3回目です。昨年の九響の前に、2022年の出張サマーミューザ@しんゆりに神奈川フィルと出演しています。前回は、ミューザの聴衆の皆さまが九響の演奏をあたたかく聴いてくださり、ありがたかったです。フェスタサマーミューザは良いお祭りですよね」

 今回の神奈川フィルの演奏会は、アイヴズ(W.シューマン編)の「アメリカ変奏曲」、グルダのチェロと吹奏楽のための協奏曲、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」というプログラム。

 「アイヴズの『アメリカ変奏曲』は、当時のアメリカ国歌(注:現在の国歌『星条旗』ではない)を使った変奏曲で、オリジナルはオルガン曲。後半のサン=サーンスの交響曲第3番ともつながります。ウィリアム・シューマンのオーケストレーションがすごく上手で、オーケストラが非常にきれいに鳴るのです。次に演奏するグルダのチェロ協奏曲と、内容的にも共通し、テイストにも合いそうですし、演奏会前半はちょっと変わったプログラムにしたいと思って、『アメリカ変奏曲』を選びました。私はもともと『スター・ウォーズ』が大好きで、アンダーソンも好きですし、アメリカ音楽には愛着があります」

 まさに今年7月のアメリカ建国250年を祝うのにふさわしい選曲といえる。

 グルダのチェロと吹奏楽のための協奏曲で独奏を務める笹沼樹は、ソリストとして活躍するとともに、カルテット・アマービレのメンバーとしても知られている。

笹沼樹 ©no-te.com/cucui

 「グルダのチェロ協奏曲は、独奏の笹沼さんが提案した曲のなかにありました。私にとっては初めてのレパートリーです。私は昔、チェロを弾いていたので、こんな曲があるのは知っていましたが、演奏したことはありません。フリードリヒ・グルダというと、ピアニストとしてのイメージが強いですが、あのグルダの書いたコンチェルトということでお楽しみください。型破りな作品ですが、難解なところはなく、ある意味ポップス的な聴きやすい曲です」

 演奏会後半はサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。ミューザ川崎シンフォニーホールの新しいオルガニスト澤菜摘の独奏が楽しみだ。

澤菜摘 ©秦淳司

 「今年4月にミューザ川崎シンフォニーホールのオルガニストに就任した澤菜摘さんにオルガンを弾いていただきます。結構、好きな曲で、演奏できるのがうれしいですね。激しいところと穏やかなところが統合されていて、ベートーヴェン的ともいえます。ただ難しいのは、オルガンとの音量のバランスが取りづらいことです。とはいえ、ミューザ川崎シンフォニーホールは大好きなホールなので、楽しみにしています」

 神奈川フィルとは、2019年に、ジョン・ケージの「4分33秒」やジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」を含むアメリカ・プログラムが話題となった。

 「神奈川フィルとは、10年近いお付き合いでしょうか。最初は音楽鑑賞教室だったと思います。地理的には都会だけど、良い意味での地方オーケストラの温かみやアットホームな雰囲気があって好きです。こちらが振ると、素直に応えてくださる。音楽に集中しやすい環境にある練習場にも愛着がわいてきました」

神奈川フィルハーモニー管弦楽団

 太田のプログラムにはいつもこだわりが感じられるが、彼はこれからどのようなレパートリーに取り組んでいくのだろうか。

 「指揮者になって約10年になりますが(注:2015年、東京国際音楽コンクール〈指揮〉で第2位入賞)、まだ32歳です。レパートリーはなるべく偏らないようにしたいと思っています。これから40年くらい指揮者をやると考えると、まだ『何でもやります』という姿勢でいきたいです。残念なのは、ポストを2つ(注:九響と仙台フィル)いただいたからか、編曲物などのライトな曲のコンサートに呼んでくれるオーケストラが減ったことでしょうか(笑)」

 現在、太田は、二人の子どもたちの子育てにも追われている。

 「今は、常に眠いです(笑) 次男がまだ保育園なので、どうお迎えに行くかをいつも考えています。男の子2人はカオスですね。子どもが起きている時間は仕事ができないので、結局、夜遅くまで起きていることになる。今は、仕事をするか、子どもを見るか、寝るかの3つだけで、他の選択肢はないですね(笑) 人間が試されているという感じです」

 最後に、フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2026への抱負をきいた。

 「演奏会ではなかなか聴けないアイヴズの『アメリカ変奏曲』と笹沼さんの弾くグルダのチェロ協奏曲を是非聴いていただきたいですね。演奏会前半で珍しい作品に触れていただき、後半のサン=サーンスの『オルガン付き』では、ミューザ川崎市シンフォニーホールオルガニストの澤さんの演奏を、神奈川フィルのサウンドとともにお楽しみください」

取材・文:山田治生

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2026
2026.7/25(土)~8/11(火・祝)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団
これぞ新時代のクラシック!

7/30(木)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
(14:00開場/14:20~プレトーク)

出演/
指揮:太田 弦
チェロ:笹沼 樹
パイプオルガン:澤 菜摘

曲目/
アイヴズ(W.シューマン編):アメリカ変奏曲
グルダ:チェロと吹奏楽のための協奏曲
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78「オルガン付き」

問:ミューザ川崎シンフォニーホール 044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/

特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
 22回目となる真夏のオーケストラの祭典、フェスタサマーミューザKAWASAKI 2026の季節がやってくる。合言葉は「百花“響”乱!」。18日間にわたり、首都圏9つのオーケストラに、仙台フィルが加わった10団体が、豪華指揮者陣のもと、様々なプログラムで競演を繰り広げる。
 オープニングを飾るのは、創立80周年を迎える東京交響楽団の第4代音楽監督に就任したロレンツォ・ヴィオッティ。そして、大野和士、佐渡裕、高関健、セバスティアン・ヴァイグレといった楽団を代表するベテラン指揮者。さらに大巨匠・小林研一郎に、フィナーレといえばこの人、原田慶太楼など、豪華な顔ぶれが続々登場する。他にも恒例の「サマーナイト・ジャズ」や「真夏のバッハ」、小川典子の「イッツ・ア・ピアノワールド」など人気企画も充実。満足度96%の音楽祭を満喫しよう!


山田治生 Haruo Yamada

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。雑誌や演奏会のプログラム冊子に寄稿。著書に「トスカニーニ」、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方 」、編著書に「戦後のオペラ」、「バロック・オペラ」、「オペラガイド」、訳書に「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」などがある。