INTERVIEW 樋口あゆ子(ピアノ)——日本デビュー30周年は、20世紀初頭の名器で思い出の協奏曲を

 ピアニスト、昭和音楽大学の指導者としての活動とともに、ベトナムと日本の友好にも貢献するなど、社会と音楽をつなぐ活動にも精力的な樋口あゆ子が、日本デビュー30周年の記念リサイタルを開催する。プログラムはベートーヴェンの第5番「皇帝」とチャイコフスキーの第1番という、大曲コンチェルトの組み合わせだ。

 「浜離宮朝日ホールの音響が大好きで、まずは会場を決めました。そして20周年の時はソロのみでしたので、今回はさらに表現的に規模の大きなものにしたく、協奏曲を弾こうと決めたのです」

 今回の作曲家は、これまでラフマニノフやショパンなどを選ぶことが多かった樋口にしては意外な印象を受ける。

 「ベートーヴェンの『皇帝』は、高校1年生で小松一彦氏指揮・関西フィルハーモニー管弦楽団と共演して以来、さまざまな場で演奏してきました。最後に弾いたのは1994年にオムリ・ハダミさんの指揮でポルトガルのポルト市交響楽団と。しかしそれからはずいぶん取り上げていなかったので、今回の公演にあたり青春時代の大切な楽曲を、と決めました。チャイコフスキーは、桐朋学園大学の研究生のときにオーケストラとの共演の機会をいただけることになりましたが、いろいろな事情があり中止になってしまったのです。それ以来この曲を弾く機会がなく、ぜひここで実現させたいと思いました」

 使用するピアノは20周年のときにも美しい音色を響かせた、ヴィンテージスタインウェイ「CD 368」だ。

 「ベートーヴェンの時代はフォルテピアノからモダン楽器への移行期で、チャイコフスキーの頃は、ほとんど現代のピアノに近い楽器が弾かれていました。カーネギーホールで多くの巨匠たちに貸出専用で演奏されていた114年前のヴィンテージスタインウェイコンサートグランドは、それらの時の隔たりをつなぐのにぴったりの楽器なのです。モダンよりもかなり軽いタッチでありながら豊かな響きをもっており、非常にバランスがよく、会場とオーケストラとの相乗効果ですばらしい音色が奏でられるはずです」

 共演は管弦楽、オペラなど幅広い活躍を見せる岩村力の指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団だ。コンサートの幕開けには、オーケストラ単独でモーツァルト《フィガロの結婚》序曲が演奏される。

 「岩村さんは私が約15年パーソナリティを担当しているラジオ番組の第1回ゲストでした。丁寧に寄り添いながらお話をしてくださっていたのが印象深く、いつかご一緒したいとずっと思っていたのです。今回ついに共演できるのがとてもうれしいです。東京シティ・フィルの皆様の演奏もよくお聴きしていて、柔軟な音楽性にいつも感激しています」

 名器で奏でられる、深い知見に裏付けられた樋口の音楽は2つの名曲を通してホールで豊かに響き渡ることだろう。

取材・文:長井進之介

(ぶらあぼ2026年5月号より)

樋口あゆ子 日本楽壇デビュー30周年記念 ベートーヴェンとチャイコフスキー 名曲ピアノコンチェルト
2026.5/24(日)14:00 浜離宮朝日ホール
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
https://www.proarte.jp


長井進之介 Shinnosuke Nagai

国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
X(旧Twitter) https://x.com/Shinno1102
Instagram https://www.instagram.com/shinno_pf/