ドイツに渡ってからベートーヴェン観が変わりました
日本人として初めてミュンヘン音楽大学のピアノ科教授を務める今峰由香。大学のスケジュールの合間を縫いながら、2013年から本格始動した日本国内でのコンサート活動を徐々に拡げているところだ。今年は10月に大阪と名古屋でベートーヴェンのピアノ・ソナタ5曲によるリサイタルを行なう。曲目は第8番「悲愴」、第14番「月光」、第24番「テレーゼ」、第25番「かっこう」、第26番「告別」。
「ベートーヴェンというと、一般的には男性的で力強いイメージ。でも実際には、優美なやさしさ、人間愛、信仰や、ユーモラスな面も皮肉な面もあります。そんなさまざまな側面を表現できる曲を選びました。後半3曲は同時期に書かれた作品。比較的小規模なソナタが集まっている時期です」
彼女自身、かつてはそのベートーヴェンの力強さに苦手意識もあったが、ドイツで勉強してからベートーヴェン観が変わったという。
「まず変わったのは、練習室の豊かな響きに助けられて、ピアノの響きをよく聴くようになったこと。そしてその音楽の中にあるドイツ語の語感を理解できるようになったことです。晩年のベートーヴェンは楽譜の指示をドイツ語で書いてあることも多いですから、ドイツ語のニュアンスを理解できるようになって、いろんなことがわかってきたような気がします」
日本の一般大学で西洋史を学んだあとにミュンヘン音大へ留学。卒業後すぐに非常勤講師として採用され、02年には32歳という若さでピアノ科の教授に抜擢された。
「教えることで自分自身気づかされることもありますし、試験の採点などを始め、教授同士で音楽についてディスカッションする機会も多く、とても刺激になります。視野が広がったと思いますね」
レパートリーの中心はやはりドイツ音楽。ドイツ音楽の“正統”ということを、現地でどのように感じているのだろう。
「楽譜を忠実に読み取ることだと思います。勝手に解釈するのではなく、音符や記号の意味をきっちりと理解して、それをどう演奏するか。演奏家の宿命は、作曲家のメッセージを伝える仲介者であること。そのメッセージは楽譜に書いてあるのです。そうした様式感がきちんとした演奏であれば、ドイツ人も必ず評価します。演奏者がドイツ人であるか東洋人であるかなどという偏見はありません」
19世紀から続く名門音大で日常的にドイツ音楽と接している彼女の、掌中のベートーヴェンに期待が高まる。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年10月号から)
宗次ホール スイーツタイムコンサート
10/27(火)13:30 宗次ホール
問:宗次ホールチケットセンター052-265-1718
今峰由香 ベートーヴェンを弾く!
10/29(木)19:00 大阪倶楽部4階ホール
問:KCMチケットサービス0570-00-8255