タリス・スコラーズの創設者、ピーター・フィリップスが語る50年の歩み

 英国を代表するアカペラ・アンサンブル、タリス・スコラーズ。1973年の結成以降、ルネサンス期の宗教合唱曲を中心に2500回以上のコンサートやレコーディングを行い、87年には(古楽の録音としては初めて)グラモフォン誌レコード・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど、その圧倒的なハーモニーは世界の音楽ファンを魅了してきた。現在は、昨年迎えた結成50周年を記念するワールドツアーを行っており、日本ではこの6月末~7月初旬にかけてコンサートを開く。2019年以来5年ぶり、古楽/合唱ファンなら聴き逃せないこの来日公演に先立ち、タリス・スコラーズを創設した指揮者ピーター・フィリップス氏から寄せられたコメントをご紹介する。
ピーター・フィリップス ©Valérie Batselaere

――まずはこの50年間の歩みについてお話しください。
 タリス・スコラーズのメンバーは50年の間でゆっくりと入れ替わり、何十年も前に我々が確立したテクニックが若い人たちに受け継がれる時間を作ることができました。もはや、何十年もかけてスキルを磨き、ユニークなものを生み出す職人たちの家業のようなものです。50年前にこのグループを結成したときからの変わらない目標は、頭の中にあった理想的な音を見つけることです。

――アーティストによる独自レーベルの草分けでもある「ギメル・レコード」を設立して以降、数多くの録音をリリースしていますね。
 すでに60枚以上のCDを制作しており、まもなくさらに2枚がリリースされる予定です。テューダー朝の時代に活躍したロバート・フェアファックス(1464~1521)の音楽の1枚と、ニューヨークを拠点に活動する現代作曲家、ニコ・ミューリーが私たちのために書いた6つの作品に捧げられた1枚です。私たちの録音の多くは長きにわたって聴き継がれています――タリスの40声のモテット「Spem in alium」、ジョスカンのミサ曲「パンジェ・リングァ」、パレストリーナの「教皇マルチェルスのミサ」、ビクトリアの「レクイエム」などは1980年代にレコーディングされたものです。それ以来、さらに多くの作品でレパートリーを広げてきました。私たちのライブラリには1500を超える作品群があり、そのすべてをこの50年の間に一度は歌ってきました。

タリス・スコラーズ ©Rodrigo PérezG

――タリス・スコラーズをはじめ、イギリスにはたくさんの素晴らしいアカペラ・アンサンブルが存在しています。優れたハーモニー感覚をはぐくむ文化的土壌のようなものがあるのでしょうか?
 聖歌隊の活動が、合唱音楽への愛情とそれを歌うテクニックを育むのに役立っていると思います。英国には30以上の大聖堂と大学聖歌隊があり、皆ほぼ毎日歌い、子どもも参加しています(以前は男子のみでしたが、女子も参加するようになってきています)。これは世界的にみてもユニークな伝統であり、比類のない教育の可能性を提供しています。とりわけ初見歌唱の方法や人前で自信を持って歌う方法を、若者たちは(聖歌隊の活動を通して)身に着けています。

――日本のクラシックファンの中には、ルネサンス音楽のようなポリフォニックな作りの音楽になじみのない人も多いです。そうした方々に向けて、ポリフォニーの楽しみ方を教えていただけますか。
 ルネサンス時代のポリフォニーは、美しい表層とその下の魅力的なディテールを特徴とする非常に特殊な音楽形式です。だんだん興味を持つようになっている一般的なリスナーがもっと聴きたいと思えるように、私たちは表層の音をできるだけ魅力的に歌おうとしています。しかし、この複雑な対位法の網の中で起こっていることをすべて理解する必要はありません。こうした音楽や私たちのサウンドの美点は、最初の数秒で、まるでヨガのようにリラックスし、聴き手を穏やかな異空間へといざなってくれるような、直接感情に働きかける効果を持っているということです。コンサートではそのような体験ができれば十分なのです。

――最後に、今回の来日ツアーの聴きどころを教えてください。
 今回のツアーには2つのプログラムがあります。「合唱団結成50周年プログラム」は、私たちが50年にわたって歌ってきた最高の音楽からのセレクションであり、私のお気に入りの曲です。そのため、様々な作曲家が取り入れられています。ある意味で、私がプログラムの中でハイライトしたいのは、ニコ・ミューリーの「ラフ・ノーツ」とアルヴォ・ペルトの「息子はどこへ」の2つの現代作品です。前者は私たちのために書き下ろされたもので、後者は私が最も尊敬する現代作曲家の作品です。
 もうひとつのプログラムでは、パレストリーナによるミサ曲を完全な形で取り上げますが、5つの章(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ)はそれぞれ異なる作品からピックアップされています。ミサ曲の間には、システィーナ礼拝堂の聖歌隊のために書かれた他の作品を入れました。最も有名なアレグリの「ミゼレーレ」はもちろん、同礼拝堂の聖歌隊員として活躍した作曲家たち――モラレス、フェスタ、カルパントラ、ジョスカンらの作品もあります。

フィリップス氏ほか、タリス・スコラーズメンバーが日本のファンに向けたメッセージ動画が公開中!
(テンポプリモYouTubeチャンネルより)


【Information】
タリス・スコラーズ 2024年日本ツアー

6/30(日)14:00 びわ湖ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp


7/1(月)19:00 福岡シンフォニーホール
問:アクロス福岡チケットセンター092-725-9112
https://acros.or.jp


7/3(水)19:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
問:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521
https://www.ryutopia.or.jp


7/5(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:テンポプリモ03-3524-1221
https://tempoprimo.co.jp


7/6(土)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp

〈出演者〉
指揮:ピーター・フィリップス
タリス・スコラーズ

〈演目〉
[プログラムA(★)]
合唱団結成50周年プログラム

ギボンズ:手を打ち鳴らせ
ウィールクス:いと高きにある神に栄光あれ
トムキンズ:神よ、高ぶるものが逆らって立ち
N.ミューリー:ラフ・ノーツ
パーソンズ:おお、慈悲深きイエス
アレグリ:ミゼレーレ (神よ、われを憐れみたまえ)
パーセル:神よ、われを憐れみたまえ(9声のミゼレーレ)
ゴンベール:ダヴィデはアブサロンを憐れみぬ
ジョスカン・デ・プレ:アブサロン、わが息子
A.ペルト:息子はどこへ

[プログラムB(☆)]
システィーナ礼拝堂からのひらめき
パレストリーナ:ミサ曲集 第9巻《主よ、われ御身に依り頼みたり》 -キリエ
モラレス:天の女王、喜びませ (レジーナ・チェリ)
パレストリーナ:ミサ曲集 第12巻《汝はペテロなり》 -グローリア
フェスタ:あなたは何にもまして美しい
カルパントラ:哀歌
パレストリーナ:ミサ曲集 第2巻《教皇マルチェルスのミサ》 -クレド
アレグリ:ミゼレーレ (神よ、われを憐れみたまえ)
パレストリーナ:ミサ曲《主よ、感謝を捧げます》より-サンクトゥス
ジョスカン・デ・プレ:万物の連なりを超えて
パレストリーナ:ミサ・ブレヴィス -アニュス・デイ