沢井一恵(箏)

沢井×日本の前衛たち

きっかけは近藤譲

 現代箏曲界の第一人者・沢井一恵のリサイタルがすごい。
 柴田南雄、高橋悠治、近藤譲、西村朗、杉山洋一と、世代をまたいで日本作曲界のそうそうたる顔ぶれの作品が並ぶ。しかもそのうちの4作が新作初演というのだから目が離せない。
 さらには沢井と並ぶ箏曲界の双璧・野坂操壽(旧名・野坂惠子)が共演という豪華さ!
 この意欲的なコンサートを開くきっかけは、近藤譲への作品委嘱だったそう。
「これまで日本の名だたる作曲家の方々がお箏に関わってきてくださったのですが、近藤譲さんだけはお箏単独の作品がなかったんですよ。だからぜひ近藤さんに書いてほしかったのです。
 でも邦楽器がお嫌いだと聞いてたので、無理かなと思いつつお願いしてみたら、意外にも『そんなことはない、書きますよ』と、私と野坂さんのための二重奏を作曲してくださることになりました。それを初演するのがこのリサイタルを企画した最初の目的です」
 5人の中で最も若い杉山洋一はかねてから気になっていた存在だったそう。
「初めまして、と言ったら、『僕は3歳から沢井さんを知ってます』と言われてびっくり。彼は篠崎功子さんにヴァイオリンを師事していて、私は亡くなった石井眞木さんたちと一緒にしょっちゅう篠崎さんの家でリハーサルをしていたんです。
 今回、『鵠(クグヒ)』という素晴らしい曲ができあがりました。その説明でうちにいらした時、古代中国の五絃琴という復元楽器をお見せしたらものすごくよろこんでくれて、ひと月もしないうちにこの五絃琴のための『手弱女(タワヤメ)』という新曲も!」

作曲家自身も演じる初演作

 初演作品がさらにもう1曲。
「高橋悠治さんの二重奏『百鬼夜行絵巻』も私と野坂さんのために書いてくださった作品で、実は初演する予定だった7月のコンサートが急に中止になり、もともと再演を決めていた今度のリサイタルが初演となりました。悠治さんにも朗読で舞台に登場してもらいます。意外に乗ってくださってるみたいで、私と野坂さんをつかまえて、『こっち赤鬼、こっち青鬼とかいえばいいんでしょ?ふっふっふっ』ですって。そういうアナタは妖怪よ! って言いたいですよね(笑)」

夢に描いていたプログラム

 柴田南雄の「枯野凩(かれのこがらし)」と西村朗の「覡(かむなぎ)」は、それぞれ1986年と1992年の旧作だが、前者は能管を韓国横笛テーグムに、後者は打楽器をコントラバス(!)にと、どちらもオリジナルの編成とは相手を変えて演奏するのは沢井らしいチャレンジ精神だろう。
「いつかこうありたいと思い描いていたようなプログラム。もう最高です。われながらすごいと思っています。次の新しいことも考えたいんですけれども、今のところこれが終わらないとまだ次が見えません」
 十七絃箏から、通常の十三絃の箏、二十五絃箏、さらに五絃琴と、同族のさまざまな響きが織りなす、5人の作曲家の6つの作品。新しいものに敏感なアンテナを持つ人はけっして聴き逃せないリサイタルだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

2015/1/9(金)19:00 王子ホール
問:クリスタル・アーツ03-5210-9071 
http://www.crystalarts.jp