理想のデュオで味わうブラームスの真髄
ブラームスの3つのヴァイオリン・ソナタは、それぞれが魅力的な個性を有するロマン派の同ジャンル屈指の名曲だ。しかしながら、ヴァイオリンをテクニックに任せてバリバリ弾けば楽曲特有の味わいが生まれず、逆にピアノは独奏曲を上回るほどタフなテクニックが求められる。そうした音楽の性格に相応しいコンサートが、11月に王子ホールで行われる漆原啓子&阪田知樹の全曲演奏会である。
ヴァイオリンの漆原啓子は、1981年ヴィエニャフスキ国際コンクールにおいて最年少で日本人初優勝を果たして以来、ソロ、室内楽、協奏曲、CD録音、TV出演、教授など多彩な活躍を続け、2021年にデビュー40周年を迎えたベテラン奏者。高い技術力と王道の表現スタイルを持った本格派で、ヴァイオリンという楽器の美点を真に伝えてくれる。しかもここ数年は、ナチュラルにして味わい深い、まさに円熟を極めた演奏を聴かせている。このキャリアと音楽性が、ブラームスのソナタの真髄に通じるのは言うまでもない。
ピアノの阪田知樹は、2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール第1位など多くの賞を獲得後、世界20ヵ国以上で演奏を重ねている超俊才。彼は、目覚ましいテクニックを生かして、ダイナミックかつきめ細かな音楽を奏でる。表現は的確で説得力抜群。しかも室内楽でのセンスやバランス感覚が素晴らしく、共演者を引き立てながら絶妙な自己主張を果たす。これまた高度な技巧とヴァイオリンとの同調の両面が不可欠なブラームスのソナタにこの上なく適した奏者だ。
ここで二人が構築する滋味深き音楽にじっくりと耳を傾けたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年10月号より)
2023.11/17(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp