NHK音楽祭2023 〜名曲と出会う場所〜
ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮) NHK交響楽団

巨匠が悠揚迫らぬ運びで描く稀代の名曲

 今年20回目を迎えるNHK音楽祭には、NHK交響楽団に加えて、4年ぶりの海外オーケストラ=イスラエル・フィルが参加する。後者はむろん要注目だが、N響の公演も、ウラディーミル・フェドセーエフが指揮するチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」全曲という、期待度満点の内容だ。

 まずはロシアきっての巨匠フェドセーエフの指揮を享受できるのが嬉しい。1932年レニングラード生まれの彼は、74年からシェフを務めるモスクワ放送響(現チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ)と現代では異例の50年近いパートナーシップを築き、世界各地の著名楽団や歌劇場に数多く客演。N響とも2013年以来たびたび共演し、確かな構築の中に迫力や色彩感を湛えた快演を展開している。だが今年91歳の年齢と現在の社会情勢から、日本で接する機会は極めて貴重。今年3月のN響関西公演で健在ぶりを示しただけに、東京における久々の共演は絶対に見逃せない。

 組曲で有名な「くるみ割り人形」だが、チャイコフスキーの美点が詰まったこの円熟の名作は、全曲演奏でこそ真価を堪能できる。美しい旋律、愉しいリズム、豊麗なロマンに、感動的な児童合唱等々、魅惑の音楽が終始続く(しかも長くない)ので、今回ぜひ生体験をお勧めしたい。フェドセーエフとN響は、2018年にも本作を取り上げ、壮大かつ濃密な名演を聴かせている。あれから5年を経て、熟練のマエストロと充実著しい今のN響(同曲は各楽器の名人芸も楽しみだ)が再び紡ぐ稀代の名品…。それはもう歴史的瞬間と言っても過言ではない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年10月号より)

※ウラディーミル・フェドセーエフは、体調不良のため来日を見合わせることとなりました。
代わってジョン・アクセルロッドが指揮をいたします。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(11/15主催者発表)

2023.11/20(月)19:00 NHKホール
問:NHKプロモーション音楽祭係03-3468-7736 ハローダイヤル050-5541-8600
https://www.nhk-p.co.jp