上野通明、沖澤のどかが齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞

左:上野通明 右:沖澤のどか

 3月6日、第21回齋藤秀雄メモリアル基金賞の受賞者が発表された。受賞したのは上野通明(チェロ部門)、沖澤のどか(指揮部門)の2名。発表と同日、都内にて贈賞式が行われ、上野のほか選考委員の堤剛、沼尻竜典らが出席した。ドイツ在住の沖澤はオンラインでの出席となった。

 この賞は、チェリスト・指揮者・教育者の故・齋藤秀雄にちなみ、2002年に財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団)によって創設された。小澤征爾が名誉顧問を務め、音楽芸術文化の発展に貢献し今後さらなる活躍が期待される若手チェリストと指揮者を顕彰する。

 チェロ部門を受賞した上野は1995年パラグアイ生まれ。2021年のジュネーヴ国際音楽コンクール・チェロ部門で日本人として初優勝を果たした。そのほか、ヨハネス・ブラームス国際コンクール、ルトスワフスキ国際チェロ・コンクールなど数多くの国際的なコンクールで華々しい成果を収めている。

 一方、指揮者部門の受賞者である沖澤は、1987年青森県出身、東京藝術大学卒業。2018年の東京国際音楽コンクール〈指揮〉にて第1位および特別賞、齋藤秀雄賞を受賞、19年には若手指揮者の登竜門、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した。22年にはセイジ・オザワ 松本フェスティバルで《フィガロの結婚》を指揮し、サイトウ・キネン・オーケストラにデビュー。今年4月からは京都市交響楽団の常任指揮者に就任する。

 堤は、二人の受賞について以下のように述べた。

堤剛 提供:ソニー音楽財団

「上野さんは『不断の努力』を惜しまないチェリストだと思います。長い間彼の演奏を聴いてきた中で、時に壁にぶつかっている姿も目にしましたが、必ず乗り越え一皮むけた姿を見せてくれました。この成長の積み重ねが、今回の受賞につながったのだと思います。沖澤さんは、齋藤先生が著された『指揮法教程』で指揮を学び始めたとのことですが、堂に入った演奏と多様なレパートリーで素晴らしいキャリアを重ねてこられました。幼少期にはチェロも学んでいたということで、偉大なチェリストでもあった齋藤先生の名を冠した本賞を受賞するのにふさわしい方だと感じています。」

 受賞のスピーチで、上野は次のように喜びを語った。

提供:ソニー音楽財団

「幼少期はスペインで伸び伸びとチェロに取り組んでいましたが、日本に戻ると周囲の奏者のストイックさ・演奏の上手さに驚き、目標を掲げて努力することの大切さに気づきました。自分を律し辛抱強く努力を重ねる厳しさこそが、日本人奏者が国際的なコンクールで活躍している要因ではないかと感じています。そして、この厳しさの源流には、齋藤先生が掲げられていた音楽教育の高い理想があると思います。齋藤先生から受け継がれてきた精神を大切にしながら、チャレンジを重ね自分らしい音楽を追求していきたいです」

 続いて、沖澤は受賞について以下のように語った。

ⒸFelix Broede

「指揮者の道を志すようになったとき、当時師事していたチェロの先生から真っ先に薦められたのが『指揮法教程』でした。齋藤先生の品のある佇まいと指揮姿の美しさに感動したことを覚えています。指揮の先生方からも、齋藤先生の教えは常に伝えられてきました。なかでも、晩年に『指揮法教程』を現状のご自身の考えや日本音楽界の状況に即した内容に書き直したい、と仰っていたというエピソードからは、常にアップデートを続ける姿勢に感銘を受けました。齋藤先生が礎を築いた日本のクラシック界で、私自身は次の世代に何を残せるのかを自問自答しながら精進していきたいです」

提供:ソニー音楽財団

 贈賞式の最後には、上野がヒンデミットの無伴奏チェロ・ソナタの第1、4、5楽章を披露、冴えわたった見事な演奏で式を締めくくった。

齋藤秀雄メモリアル基金賞
https://www.smf.or.jp/saitohideo/