マルチな異才が生み出す稀有の楽興
極めて刺激的なコンサート! それがトッパンホールの「イェルク・ヴィトマン」だ。ドイツ生まれのヴィトマンは、耳を惹き付けて離さない作品を生み出す現代屈指の作曲家にして、抜群の技巧と自在の表現力を持つ世界的クラリネット奏者、さらには指揮者でもあるマルチな音楽家。トッパンホールでは、2015年のハーゲン・クァルテットとの共演でインパクトを与え、18年の無伴奏リサイタルで語り草となる凄演を聴かせている。そこで実現したのが本公演。ヴィトマンは、このホールの音響を評価し、自作の譜面に「トッパンホール・ピアニッシッシモ」なる記号を書き込んだというから、注目度もすこぶる高い。
今回は俊才実力派のカルテット・アマービレが共演。前半はヴィトマンの作品が並び、最初の弦楽六重奏曲には、欧州帰りのヴィオラの鈴木慧悟、モダン&ピリオドの二刀流が光るチェロの上村文乃も加わる。ユーモラスなクラリネット独奏曲「3つの影の踊り」ではヴィトマン自身、難曲たるヴァイオリン独奏のためのエチュードでは超絶技巧曲を音楽性豊かに表現する周防亮介が腕を発揮する。そして耳目を集める弦楽四重奏曲「狩」。同曲は、20年12月にトッパンホールでアマービレが鮮烈な演奏を展開しており、2年後に作曲者の前で奏でる今回は更なる快演が期待される。後半はウェーバーのクラリネット五重奏曲。ドイツの森の香り漂うこの名品は、CDの名演も印象深いヴィトマンのソロと、触発を受けるアマービレの共奏に熱視線が注がれる。
異才の二面と日本の俊英たちの快奏を併せて味わえるこの“個展”。まさに興味津々だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年3月号より)
2023.3/13(月)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com