あらゆる意味で理想が叶ったデュオ・リサイタルです
2021年度齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞し、カルテット・アマービレでの活躍も際立つ俊英チェリスト・笹沼樹。9月にHakuju Hallで、パリで教鞭を執りながらソロや室内楽で実績を重ねるピアニスト・上田晴子との「DUOリサイタル」を行う。
ソロと室内楽のほか、少し前まで在籍したN響アカデミーや在京楽団の客演首席奏者としてオーケストラでも演奏し、「アンサンブルの経験はソロ─特にピアノとのデュオ─にも生きるし、偉大な指揮者のもとで弾くと音楽の見え方が違ってくる」と各活動を相互の糧にしてきた笹沼。リサイタルも「年に20〜30回位は行っている」が、今回は「上田晴子さんとの共演ありき」の意義深い公演だ。
「2019年にブラームスのピアノ五重奏曲を共演した際、最初の一音からビビッときて、演奏会後に『今度一緒にやってください』と頼もうと思っていたら、上田さんの方からそう仰ってくださったんです。それでデュオが実現し、昨年2月に一度公演を行いました。上田さんのピアノは弦楽器のように聞こえる瞬間がありますし、彼女は弦楽器と一緒に和声を作ってくれます。その方向で音楽作りができるピアニストは稀ですし、演奏家同士が響きを混ぜていくそうしたスタイルは、小空間のHakuju Hallで最大限に生きると思います」
しかも今回は、「互いに弾きたい曲を出し合って決めた」プログラム。前半にグラズノフの「吟遊詩人の歌」とプロコフィエフのソナタ、後半にR.シュトラウスのソナタ他(歌曲等を予定)が並ぶ。
「一つひとつの作品は日本でも演奏されていますが、組み合わせ方にヨーロッパで活動する人の思考が反映されていると感じます。選んだのはウクライナの戦争が始まるかどうかという時期だったのですが、結果としてロシア本流のグラズノフとウクライナ出身のプロコフィエフが続くことに意味が生まれました。でも後半は私が好きなドイツ音楽。会場を考慮しながら、演奏者も聴衆も満足感がありつつ、疲れすぎずハッピーになれるプログラムを組みました」
各曲の魅力も尽きない。
「グラズノフの作品は、ロシアの作曲家特有の朗々とした響きがある曲。前情報がなくてもその広い響きをたっぷり浴びることができます。プロコフィエフのソナタは、そうしたロシアの幅広いイメージに加えて、お芝居を観ている瞬間や何かの仕掛けがあるような作品。特に上田さんのピアノの、ボウイングが見えたり、管弦楽的な音に聞こえたりする部分が生きる曲でもあります。R.シュトラウスのソナタは王道のドイツ音楽ですが、日本人にも終始馴染みやすい作品ですし、(op.6と青年期の作品なので)後年の曲とは違った一面を知ることができるのが新鮮だと思います」
また今回は、これまで相当な回数演奏し、「自然体で細部まで伝わる」と話すHakuju Hallの響きも強い味方となる。
12月にはバッハの無伴奏組曲全曲演奏会も予定し、「ソロ、室内楽、オーケストラの活動を続けながら、歌曲を題材に言葉と音楽の関連性を探るなど、絵画等を含むアートを広い意味で見ていきたい」と、今後への期待も大きい笹沼樹。まずは「共演者もプログラムも会場も、二人の理想がかなりの次元で叶った演奏会なので、思い切り楽しみながら、お客様と音楽を共有したい」と語る本公演で、現在のベスト・パフォーマンスを体感しよう。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年8月号より)
笹沼樹&上田晴子 DUO リサイタル
2022.9/30(金)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp