田崎瑞博(チェロ/古典四重奏団)

知的好奇心を刺激する、精鋭たちの弦楽四重奏

左より:花崎淳生、田崎瑞博、川原千真、三輪真樹
(c)F.Fujimoto

 古典四重奏団が、レクチャー付きの定期公演「ムズカシイはおもしろい!!」で、ベートーヴェン中期の傑作5曲と対峙する。チェロ奏者の田崎瑞博にその狙いなどをきいた。

 「昨年の初期6曲に続いてのベートーヴェンで、今回は聴きやすい中期作品。珍しくすべて愛称付きです(笑)。7番から9番の『ラズモフスキー』3曲は、傑作を残してやろうという意欲に満ちあふれ、エンターテインメント性に富んでいます。10番『ハープ』はその流れから脇道に入り、遊びの精神もある。11番『セリオーソ』は構成が独特で演劇のよう。軽妙なコーダはシリアスな劇中劇の幕を閉じるかのようです」

 田崎が構成と語りを担当して毎回好評のレクチャーだが、今回は別枠の公演として独立し、70分みっちりサンプル演奏と語りが行われる。

 「弦楽四重奏曲にはわかりにくい作品もありますが、好きになると深く知りたくなります。難しいことにも理由や秘密があり、そこに魅力があること、すごく面白いということを伝えたいのです。レクチャーでは、なぜ“この音いいな”と感じるのか、作曲者はなぜこう書いたかということを語りたい。今回はピアノ・ソナタの一部を四重奏編曲で演奏しながら、作風から作曲者の演奏スタイルまでを探っていきます」

 古典四重奏団はストイックに突き詰めた演奏を作り上げる一方、聴衆と接する空間、現場の空気も重視している。わずかな聴衆の前で演奏する「試演会」(会員が対象)はその象徴である。

 「自分たちの訓練が目的ですが、不思議なもので、お客さんが聴きながらどう感じているのかというのは演奏者にも伝わり、練習とは違う響きが引き出される。人がいてこそわかることがあるのです」

 1986年結成で今年35周年を迎えるが、「そうでしたっけ…」と歯切れが悪い。
 「何周年とかまったく気にしていなくて(笑)。継続すること自体が大変で、それ以外のことは考えていません。実は作曲家の記念年公演も、ピアノ付き作品も、古典四重奏団ではあまりやったことがない。とにかく弦楽四重奏曲に集中したい。今後数年分ほどのプランは考えていて、この4人でじっくり作曲家の世界に入りこんで網羅していきたい。同じような考えを持つ仲間と続けられることは、非常に幸せな環境だと感じています」

 来年秋にはベートーヴェン全曲のCDをリリース予定。後期作品だけは録音があったが、意外にも初期・中期は初録音。まさに待望の全集で、決定盤となること間違いなし。古典四重奏団の構築する、孤高の境地のベートーヴェン。実演、レクチャー共に、じっくりその世界に浸りたい。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年9月号より)

古典四重奏団 ムズカシイはおもしろい!! ベートーヴェンの時代 2021
【レクチャー公演】 2021.9/1(水)14:30 19:15
【ベートーヴェンの時代 その3】9/22(水)19:00、9/26(日)14:00
【ベートーヴェンの時代 その4】 10/28(木)19:00、10/31(日)14:00
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