アレクサンダー・ガジェヴ(ピアノ)

世界に羽ばたくピアニストのオール・ショパン・プログラム 

(c)Shahriyar Farshid

 2015年浜松国際ピアノコンクールに優勝して注目を集めたアレクサンダー・ガジェヴ。その後18年モンテカルロ・ピアノ・マスターズで優勝、さらにこの7月、オンライン開催となったシドニー国際ピアノコンクールで優勝し、着々とキャリアを積んでいる。

 1994年イタリア生まれ。両親ともピアノ教師で、父の手ほどきでピアノを始めた。19歳の頃ザルツブルクに留学してパーヴェル・ギリロフに師事、現在はベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で学ぶ。

 来たる10月には、ショパン国際ピアノコンクールへの出場も決定。その直前となる9月、ショパンの中期から後期作品によるリサイタルを行う。

 「ショパンのより深い感情が表れた曲を選びました。新しい響きやアイディアを見据えた作品が中心で、時々ドビュッシーを先取りしたパッセージが聞かれます。そんなショパンの現代的な一面が好きなんです」

 なかでも晩年の舟歌op.60、幻想ポロネーズop.61には心惹かれるという。

 「理由は、自由になれる方法を多く示してくれるから。即興的に聴こえるけれどもちろんそうではないので、“自由”な精神を保ちつつより大きな意味を音楽に与えることが難しいです」

 集中的にショパンに向き合うなか、新しい発見はあっただろうか?
 「作曲法がバロックや古典派に深く根ざしていることに気づきました。彼の考え方はバッハやベートーヴェンの影響を強く受けていて、例えばピアノ協奏曲など、モーツァルトの精神と、ベートーヴェンの表現手法を用いて書かれていると感じます。
 ショパンの音楽が伝えるメッセージは個人的で、彼の人間性に深く関わるもの。そのため譜面に書かれていることに時々矛盾を感じるかもしれません。それはある意味、楽譜の表記はすべてを表現するのに十分でないと言っているかのようです」

 浜松国際ピアノコンクールの頃は二十歳だったが、当時から「音楽家は哲学者に近い」と話し、幅広い学問に関心を示していた。この1年半はパンデミックの影響で、生活にも変化があっただろう。

 「興味深く特異な期間でしたね。その間、さまざまな分野、特に文学や哲学について知識を深めることができました。また和声、対位法、楽曲分析、即興、作曲を改めて学んだことは、音の世界をさらに探求するための新しいリンパのめぐりをもたらしてくれたと思います。
 一方で最近求めたいのは、いかに物事をよりシンプルにしていくか。私はもともと複雑なことを好むのですが、“高貴なシンプルさ”の意味に気づきました」

 日々学び、発展を遂げる26歳。少し久しぶりの来日で、どんな成長を見せてくれるのだろうか。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2021年9月号より)

アレクサンダー・ガジェヴ ピアノ・リサイタル
2021.9/8(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/