服部百音、会心の一枚。尊敬する名ピアニスト江口玲と共演を重ねながら、緻密に研究して作り上げた演奏で、凛とした音色、完璧なテクニックはもちろん期待通り。当盤はそこに留まらず、尋常ならざる没入感、気魄、大きな起伏……“若手の好演”とは違う次元の表現で楽曲の魂に肉迫し、感情の闇まで抉り出す。得意の小品は無類の名演ぞろい、プロコフィエフのソナタでの躁鬱の振れ幅の凄みはとにかく圧巻。往年の巨匠の録音にしかない“妖気”のようなものすら漂う。彼女のルーツもキャリアも関係ない。若き天才が大ヴァイオリニストに進化した記録として、永く語り継がれていくアルバムだ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年9月号より)
【information】
CD『Recital(リサイタル)/服部百音』
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番/エルンスト:「夏の名残のバラ」による演奏会用変奏曲/シマノフスキ:ノクターンとタランテラ/ショーソン:詩曲(ヴァイオリンとピアノ編)/ラヴェル:ツィガーヌ
服部百音(ヴァイオリン)
江口玲(ピアノ)
エイベックス・クラシックス
AVCL-84121 ¥3300(税込)