松田理奈(ヴァイオリン) & 三舩優子(ピアノ)

それぞれに想いを込めて、ブラームスの心の機微を伝える

 着々と熟成を深める精鋭ヴァイオリニストの松田理奈と、華のある演奏で魅せる経験豊かなピアニストの三舩優子。この実力者2人が、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲(全曲)の公演を行う。「数回共演しているが、本格的なソナタでのデュオ公演は初めて」「いい会話ができるブラームスのソナタでの共演を望んでいた」というから期待も大きい。
 演目は同ジャンル屈指の名曲ゆえに、2人の思いも深い。

松田「3曲ともたびたび弾いてきました。ブラームスが音楽に託した深さが素直に伝わる点に惹かれますし、音楽を通して“思うことの深み”を教えてくれた曲たちです。ただ、全曲演奏は初めてなので、楽しみであり挑戦でもあります」

三舩「ヴァイオリン・ソナタの中で最も演奏する機会が多い作品。それに子どもの頃、3番のソナタの第2楽章を聴いて寝るのが習慣でした。ピアノ・パートも同等に難易度は高いですが、この10年くらいはブラームスの脈拍感が自分に合ってきた気がするので、よく弾くようになりました。改めて全曲を弾く今回は、様々なアイディアを話し合い、丁寧に整理しながら演奏できるのが楽しみです」

 むろん音楽的な魅力も限りない。

松田「歌曲の旋律が複数用いられているので、その歌詞を掘り下げてみるとより奏法に意味が出てきます。また綺麗に書かれていると同時に、音楽の濃さや休符に託した意味の重さも感じます」

三舩「ソナタの中でも対話性が強く、2人で歌う部分も掛け合う部分も綾なす部分もあるのが魅力。それにピアノを端から端まで使っていて、まったく隙がないですね」

 しかも3曲それぞれが個性的だ。

松田「1番は深い愛を感じる作品。末の息子を早く失って悲しむクララに向けて、彼女が好きな歌曲〈雨の歌〉をモティーフにして曲を書いたという背景を知ると、よりそう思います。励ましや寄り添いを含めたクララへのメッセージかなと。それに比べて2番は、愛する女性を待ちながら書いた曲で、気持ちが弾んでいます。しかし3番は翌年の作なのに、友人の死を受けてネガティブな感情が詰め込まれている。この曲は短調を重視していく後期の端緒になった作品で、弾き手によって情感が変わる点はモーツァルトにも似ています」

三舩「大きな特徴は、全楽章が違うスタイルを持っていて、緊張感をずっと持続させていること。2番は、出だしの音の出し方や、リリカルなのに音数が多い点など、ピアノが意外に難しい。情熱的な3番は、勢いで弾けますし、とてもピアニスティックに書かれています」

 なお本公演は「Hakuju サロン・コンサート」。「どの楽器も美しく響く(三舩)」小空間で名作を身近に味わえる、この貴重なチャンスをお見逃しなく!
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年6月号より)

Hakuju サロン・コンサート vol.8 松田理奈 & 三舩優子
2021.6/10(木)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp