♪クラシック×日本酒 前代未聞のマリアージュ!
「交響曲 獺祭 ~磨migaki~」プロジェクト レポート後編

(C)Masaharu Eguchi

「交響曲 獺祭 ~磨migaki~」プロジェクト。前編は、ことの始まりから作曲、そして交響曲の収録までをレポートした。今回は後編、いよいよ酒造りがスタートする。

🍶日本酒造り始動

次は、収録した音をどうやって酒に聴かせるか、の課題に取り掛かる。同楽団のオフィシャルスポンサーのオンキヨーが協力することに。音楽を聴かせると言っても蔵全体に音を流すのではなく、1つの樽に限定してダイレクトに酒に聴かせる必要があった。通常のスピーカーは、振動板を駆動し空気を振動させ音を発生させるが、加振器という装置をタンクの外側に取り付け、その壁を振動させることで音を発生させるのだ。今回は、Vibtoneという加振器と、専用開発したアンプを用いることになった。しかし、獺祭で使用するタンクは発酵をコントロールするために、二重の構造になっている。どこに装置をつければ良いのかが難しい。技術者が半年間データを取り続け、加振器の装着位置を特定した。2020年11月18日、日本センチュリー交響楽団、オンキヨー、旭酒造の各メンバーが見守る中、「獺祭 ~磨migaki~」が造られるタンクの側面にスピーカーが取り付けられ仕込みが始まった。

発酵樽に設置した加振器
タンクに耳を当てる日本センチュリー交響楽団 望月楽団長

そして2021年2月9日、ついに「交響曲 獺祭~磨migaki~」を聴かせた日本酒が搾られた。旭酒造 桜井会長のテイスティング後の感想がこちら。

飯森マエストロ、作曲の和田先生、演奏をした日本センチュリー交響楽団の皆さん、そして世界初の振動式の音源システムを組んでくれたオンキヨー、このプロジェクトに掛けた皆の思いに応える為にも素晴らしい酒であることを宿命づけられた「交響曲 獺祭~磨migaki~」。ドキドキしながらテイスティングしました。なぜなら、すでに一月に搾った一本目の酒は私たちの思いに応える酒に到達していないと判断して「交響曲 獺祭~磨migaki~」と名付けられなかったからです。二本目として再チャレンジされたこの酒は香り高く芳醇でありながらぎりぎりのバランスを保っていて、口の中でパワーとまとまりを見せながら長い余韻とともに消えていく様を楽しむことのできる酒です。

続いて作曲家 和田薫さんの感想。

和田薫
私自身、お酒は日本酒に限らず、ワイン・焼酎・ウイスキーとカテゴリーを選ばず好んで飲むのですが、勿論、獺祭も以前から二割三分をはじめ各銘柄を嗜んでいました。今回の『磨』は、その中でも最も精米している二割三分をベースに作られています。二割三分は、華やかな香りとフルーティーと透明感のある口当たり、飲んだ後の余韻にまろやかさが残るのですが、この『磨』は、その遺伝子を残しつつも、力強さとコク、余韻の長さにある種のパワーを感じました。聞けば、最初の仕込みでできた酒は元気になり過ぎて、旭酒造の桜井会長がダメ出しをしたそうです。2回目の仕込みでコントロールし完成したそうなのですが、それを聞いて『磨』の美味しさとともに、曲がもろみの活性に大きく影響できたことに感無量の安堵感を感じました。
このプロジェクトは、創作〜酒造り〜新酒と初演、という道程で完成します。大阪初演の後、初めて『磨』を飲んで、大きな達成感と充実感に満たされました。関係者の一人として、是非今後も「聴いて、味わう」という機会が再びできることを願っています。

最後に、飯森範親さん。

飯森範親 (c)山岸伸
この10年、まったくお酒を飲まなくなってしまったのですが、桜井会長と同席させていただく時は必ず『獺祭』を楽しんでおります…笑
今回の『磨』の個人的な感想ですが、和食は勿論、フレンチ、イタリアン、中華、タイ料理にも合うように思います。
自分でこの交響曲作品を指揮させていただいているからなのか、味わいながらそれぞれの楽章のシーンが回想されるんです。とても不思議な感覚ですね…笑

🍶五感で味わうコンサート

(C)Masaharu Eguchi

酒が完成してからおよそ3週間後の2月27日、日本センチュリーの本拠地 豊中市立文化芸術センター 大ホールで、続く28日は、獺祭の蔵元がある山口公演として、周南市文化会館にて「交響曲 獺祭〜磨migaki〜 五感で味わうコンサート」が開催された。周南市は、山口県というだけでなく、このプロジェクトの発案者 日本センチュリー交響楽団 事業部長 小田さんの出身地ということもあるそうだ。

当日のプログラムはこちら↓
和田薫:祝響~日本センチュリー交響楽団のためのファンファーレ~
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
和田薫:交響曲 獺祭 ~磨migaki~(委嘱作品、世界初演)
     第一楽章 獺越
     第二楽章 発酵
     第三楽章 酔心
     第四楽章 熟成
     第五楽章 その先へ

作曲者の和田薫さん、旭酒造の桜井会長が見守る中、無事に世界初演が行われ、各回大盛況のうちに終演した。会場では「獺祭〜磨migaki 〜」が6,000円で限定販売され、両会場で300本近くが売れたという。

公演を終えてプロジェクトを振り返って飯森さんは次のように語った。

出会いから10数年、クラシック音楽に造詣が深い桜井会長ご夫妻と親しくさせていただいてきた中での意表をついたこのプロジェクト…先ずは無理なお願いを実現くださいました桜井会長、加振器開発でお力をいただきましたオンキヨーの大朏社長、そして「交響曲 獺祭~磨migaki~」、作曲者の和田薫さんには心から感謝の気持ちをお伝えいたします。発案当初からのチーム全体のポジティブな思いがこの成功を生み出したと言っても過言ではありません。実現できた事はもちろん、皆の前向きな思い、そして行動は、どんなことでも成し遂げる事ができるという可能性を改めて実感させていただきました。
(C)Masaharu Eguchi

🍶獺祭プロジェクト その先へ

ここまでがこのプロジェクトの全貌だ。しかし、これはどうやら“始まり”のようだ。早くも東京公演に向けて動き出している。そして、獺祭は日本に止まらず世界中でファンを獲得している。昨年5月、国内外の獺祭ファンを集めて大規模なオンライン飲み会を開催し話題になった。2月の公演を受け、今度は台湾に向けた「交響曲 獺祭 ~磨migaki~」の配信企画も浮上しているという。さらに、旭酒造はニューヨークに酒蔵を建設中。将来的には、ニューヨークの蔵で「交響曲 獺祭 ~磨migaki~」を聴かせて醸した日本酒が誕生し、日本センチュリー交響楽団による海外公演が実現するかも?

梅田の中華屋から世界へ! 日本酒ファン、クラシックファン、日本から海外へ、と趣向や国籍を超え発展していく可能性を秘めた交響曲 獺祭プロジェクト。ちょっとした日常の会話の中から始まったストーリーは、異業種のプロフェッショナルたちの熱い想いが注がれ大きく展開し、まずひとつの結実をみた。コロナ禍の困難な時代に、さらに多様な人を巻き込み発展していきそうな勢いのこのプロジェクト、今後も目が離せない。

【日本センチュリー交響楽団 公演情報】

ハイドンマラソン HM.23
2021.4/22(木) 19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール

指揮:飯森範親
ピアノ:三原未紗子
ハイドン/
交響曲 第3番 ト長調 Hob.I:3
ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11
交響曲 第15番 二長調 Hob.I:15
交響曲 第5番 イ長調 Hob.I:5

第255回定期演奏会
2021.5/15(土) 14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール

指揮:飯森範親
マリンバ:三村奈々恵
ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」より4つの海の間奏曲 作品33a
吉松隆/マリンバ協奏曲 作品109「バード・リズミクス」
ヴォーン・ウィリアムズ/「グリーン・スリーヴス」による幻想曲
エルガー/エニグマ変奏曲 作品36

日本センチュリー交響楽団
https://www.century-orchestra.jp