メンデルスゾーンの協奏曲は、単に甘美な音楽ではありません
人気ヴァイオリニスト・諏訪内晶子が、来年3月にヴァシリー・ペトレンコ(指揮)オスロ・フィルとメンデルスゾーンの協奏曲を共演する。もちろんこの曲は「30年以上演奏している、最も演奏回数の多い作品の一つ」だ。
「印象深かったのは、テミルカーノフ&サンクトペテルブルグ・フィルとの共演。マエストロが対位法的な部分を引き出した、示唆に富むメンデルスゾーンでした。またパーヴォ・ヤルヴィ&パリ管も素晴らしかったですね。共演する指揮者やオーケストラによってまったく音楽の印象が変わります」
ペトレンコは今年8月からオスロ・フィルの首席指揮者に就任した37歳の気鋭ロシア人指揮者。初共演となる彼女の見方は少し面白い。
「テミルカーノフに師事されていたとのことで共演を楽しみにしています。それに彼はロイヤル・リヴァプール・フィルの首席指揮者でもありますが、この楽団のマネージャーは、エーテボリ響時代にドゥダメルといち早く契約し、以前はラトル&バーミンガム市響に携わっていました。その方が目を付けたわけですから、有望な指揮者ではないでしょうか」
オスロ・フィルは、ヤンソンス時代以来何と18年ぶりの来日。彼女は同楽団とも初共演ゆえに両面で注目度が高い。
「私の中ではやはりオスロ・フィル=ヤンソンス。重厚な響きをもつ素晴らしいオーケストラというイメージがあります」
メンデルスゾーンの協奏曲は、「メロディは誰でも知っている名曲中の名曲」であると同時に、「難曲中の難曲」だという。
「3楽章が切れ目なく続く、当時としては画期的な作品。様々な要素が凝縮されていて、無駄なものがまったくありません。最初からずっと弾き詰めですので、集中力を要しますし、冒頭の部分などヴァイオリンが最初の間奏まで引っ張り、オーケストラへ渡すところに難しさがあります。しかも主題、第2主題ともに、1拍目ではなく、すべて裏拍から始まります。それをどう解釈するかは、演奏者により異なります」
その点を含めて、単なる甘美な音楽と捉えてはいない。
「以前マールボロ音楽祭で、期間中に若い奏者が様々な研究をする際、メンデルスゾーンの室内楽曲を全部弾いたことがあります。そこで見えてきたのは、ただ甘美でロマンティックなだけの作曲家ではなく、言いたいことがあり過ぎて仕方がない、ある意味ユダヤ的な作曲家の姿でした。また自筆譜を見ると、第1楽章は元々『コン・フオーコ』と書かれていました。最終的にはモルト・アパッショナートになりましたが、根底にはその『燃えるように』との気持ちがある。そこも意識して弾きたいと思っています」
彼女は今年2月、《国際音楽祭 NIPPON》を自身で初めて主宰した。
「自分で企画して音楽祭を作ることも、他の演奏家に出演していただくことも大変。本当に皆さんのおかげで終えることができました。それは今までになかった気持ちです」
楽曲への真摯な取り組みと新たな経験を糧に奏される、2014年の諏訪内晶子のメンデルスゾーンへの期待は大きい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2013年11月号から)
東芝グランドコンサート 2014
ヴァシリー・ペトレンコ(指揮) オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
ソリスト:諏訪内晶子(ヴァイオリン)
★3月17日(月)・アクロス福岡シンフォニーホール Lコード:89038
18日(火)・石川県立音楽堂 Lコード:53181
21日(金・祝)・ミューザ川崎シンフォニーホール
ソリスト:アリス=紗良・オット(ピアノ)
★3月12日(水)・東京芸術劇場 Lコード:34588
13日(木)・愛知県芸術劇場コンサートホール Lコード:42684
14日(金)・広島/上野学園ホール Lコード:67596
15日(土)・兵庫県立芸術文化センター Lコード:55152
22日(土)・仙台/東京エレクトロンホール宮城 Lコード:23667
*発売日などの詳細情報は下記ウェブサイトをご参照ください。
東芝グランドコンサート 公式ウェブサイト
http://www.t-gc.jp