ボヘミアの大家の“陰の名曲”を一挙に堪能
オーケストラのドヴォルザーク・プロといえば、「謝肉祭」序曲、チェロ協奏曲、交響曲第9番「新世界より」(又は第8番)の並びが定番だ。だがチェコ随一の大家の魅力はこれに留まらない。そこで演奏機会がグンと少ない名作に焦点を当てたのが、3月の東京シティ・フィルのティアラこうとう定期である。
1曲目の交響詩「真昼の魔女」は、アメリカ滞在(「新世界より」等を生んだ)から帰国後の名品の1つで、魔女が母子を襲う内容が描かれている。音楽は劇的かつ親しみやすく、晩年の作風を知る妙味もある。おつぎはヴァイオリン協奏曲。中期「スラヴ時代」に書かれたこの曲は、地元の民族色とソロの名人芸が共に満載されており、ボヘミアの香りはチェロ協奏曲以上に濃厚だ。後半は交響曲第7番。西欧的な交響曲様式とボヘミア情趣、緊密な構成と美旋律のバランスが絶妙な作品で、絶対音楽としての完成度の高さは第8、9番を上回る。
指揮は国内外の第一線で活躍する広上淳一。生気に充ちた表現に幅と深みを加えている彼が、“陰の名作”にいかなる精彩をもたらすか? がまずは注目点となる。また広上が東京シティ・フィルの定期公演を振るのは、2016年12月以来のこと。伸長著しい今の同楽団とのコンビネーションも興味をそそる。協奏曲のソロは、11年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール第2位入賞以来、充実した活動を続ける小林美樹。艶と潤いのある音色、力強くも温かな表現は曲に相応しく、彼女の演奏の成熟度にも期待が注がれる。
これは人気作曲家の深奥を生きのいい演奏で堪能できるコンサートだ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年3月号より)
第64回 ティアラこうとう定期演奏会
2021.3/6(土)15:00 ティアラこうとう
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp