ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン)

美空ひばりの歌にちなむ新アルバムをリリース

C)Masaaki Hiraga

 日本を拠点にオペラやコンサートで活躍するロシア人バリトン、ヴィタリ・ユシュマノフ。この上なく日本を愛するヴィタリが、2018年に続いて2枚目の日本歌曲のアルバムをリリースする。タイトルは『「夢」探しながら』。

「私は美空ひばりさんが大好きなんですが、彼女の〈川の流れのように〉の中の “愛する人 そばに連れて 夢探しながら”という歌詞から『夢』というテーマが生まれました。幸せや懐かしさを感じさせるような曲を選んでいます」

 〈ふるさと〉や〈箱根八里〉などの唱歌から童謡、民謡、ポピュラーソングまで、「日本の歌」のもつ多彩な世界を感じさせる選曲には、ヴィタリのこだわりが感じられる。また、〈花〉〈鯉のぼり〉〈夏の思い出〉〈ちいさい秋みつけた〉〈雪の降るまちを〉という四季を代表する5曲も印象的だ。

「ロシアの四季は日本とまったく異なり、冬が長くて春・夏・秋はほんの少しだけ。特に秋は、長く厳しい冬の前触れの暗くて悲しい季節というイメージなんです。日本に住んで6年目になりますが、一つひとつの季節を楽しむことができるのがとても嬉しい。日本の豊かな四季のすがたをぜひ歌いたいと思って選んだ5曲です」

 ヴィタリは、日本歌曲とロシアの民謡に近いものを感じるのだという。
「歴史的にも、ロシアも日本も19世紀に入ってから、西欧の芸術音楽の方法論を学んでそれを取り入れて自国の音楽を創り上げていったという共通点があります。顔かたちはヨーロッパ人かもしれませんが、ロシアの文化やメンタリティは、ドイツやフランスよりずっと日本に近いと思いますよ」

 ヴィタリの日本歌曲がごく自然に聴こえるのは、こうした日本文化に対する理解とシンパシーが根底にあるからだろうが、それにしても彼の日本語のディクションの確かさには、毎回舌を巻く。
「どんなに立派な声で歌っても、歌詞が聴き取れなければ歌に失礼ではないでしょうか。ですから私は、たとえ母国語で歌う場合でも、きちんと発音の先生について勉強をする必要があると思います。日本歌曲については、ずっと塚田佳男先生に指導をしていただいています」

 歌詞の内容を理解した上で、正しく美しい日本語の発声で歌う。当たり前のようでいて、これがきちんとできる歌い手は日本人でも多くはない。そんなヴィタリが歌う日本の「名歌」たちは、私たち日本人にとっても貴重な宝物になるにちがいない。

 さらに1月15日には、アルバム曲を中心にオペラ・アリアなどを集めたリサイタルも予定されている。着実に一歩ずつ「夢」を形にしていくヴィタリ・ユシュマノフの現在をぜひ劇場でも体験したい。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2021年1月号より)

ヴィタリ・ユシュマノフ バリトン・リサイタル
2021.1/15(金)19:00 東京文化会館(小)
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
https://sunrisetokyo.com

CD『「夢」探しながら—日本名歌集2—』
オクタヴィア・レコード
OVCL-00735
¥3000+税 
2021.1/20(水)発売予定