小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団

年末は名匠の共演とシンフォニックな大曲を


 12月に行われる都響スペシャルは、小泉和裕の指揮でドイツの交響的作品の王道2曲を並べた。
 前半はブラームス「ピアノ協奏曲第1番」。ベートーヴェンの偉大な創作を前にブラームスが最初の交響曲を呻吟しながら作曲したエピソードは有名だが、この曲も交響曲としてオーケストレーションしつつも、最終的に協奏曲に変更された。そのため非常にシンフォニックで、独奏楽器の華やかさを生かすというよりも、管弦楽の分厚いサウンドにソロが懐深く飛び込み、強烈に対峙する点に魅力がある。だから独奏者を選ぶのだが、ヴィルヘルム・ケンプを師と仰ぎ、いまや保守本流の中核を担うゲルハルト・オピッツ以上にふさわしい人もいまい。日本人の妻を持ち、親日家でもあるオピッツは、これまでにもドイツ・ピアノ音楽の深さと広がりを私たちに体系的に披露してくれた。すでに気心の知れた小泉・都響とのコンビで、心境の深まりを示してくれることだろう。

 後半は「運命」。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」というこの曲のプログラムは、後続の交響曲の規範となったが、どんな困難にも不屈であれというメッセージは時代を超えた普遍性を持っている。大変なベートーヴェン・イヤーになってしまったが、コロナ禍において私たちは音楽のみならずその人生が発する意味にも改めて気づかされたのではないだろうか。
 一歩一歩地道にキャリアを踏み固め、都響の終身名誉指揮者としてだけでなく、いまや日本全国のオケから出演依頼の引きも切らない求道者・小泉渾身のリードに刮目!
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年12月号より)

都響スペシャル2020 
2020.12/17(木)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp