歌劇《ヴォルフ イタリア歌曲集》

リートの世界が愛のドラマに生まれ変わる


 日本オペラ界の人気演出家・岩田達宗が、ヴォルフの「イタリア歌曲集」をオペラに仕立てるという。「イタリア歌曲集」は、パウル・ハイゼがドイツ語に訳した「イタリアの歌の本」から、ヴォルフが「リスペット」と呼ばれる短い恋愛詩を中心に46篇を選んで作曲したもの。声種の指定はないが、男女の詩がほぼ半分ずつ含まれているため、曲順を並び替えると男女の愛のドラマのように演奏することができる。この「並べ替え」は1958年のザルツブルク音楽祭で、ヴォルフの研究者でピアニストでもあるエリック・ヴェルバが最初に行ったものだが、今回の企画は、さらにそれを一歩進めて「オペラ」、すなわち「舞台芸術」として創り上げようとするものといえる。

 物語は1組の若い男女が出会い、恋に落ち、嫉妬や浮気や周囲の反対など様々なことを経験しながら、最終的には結ばれていくというもの。それを、老田裕子(ソプラノ)、小森輝彦(バリトン)、山本裕と船木こころ(ダンサー)、そして井出德彦(ピアノ)という「5人の人間の生身の肉体」によるパフォーマンスで描き出していく。そこには、「ほんとうに大切なものは、ささやかなものの中にある」という「イタリア歌曲集」自体のテーマが反映されている。科学技術がどれほど発展しようとも、人間の幸せはその人の心の中にしかないということを、コロナ禍に見舞われた今、私たちは実感している。人間の中に宿る命の美しさこそが大切なのだということを教えてくれる歌劇《ヴォルフ イタリア歌曲集》。まさに今、観るべきオペラではないだろうか。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2020年11月号より)

2020.11/28(土)15:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp