岸上 穣(ホルン)

“二刀流”の名手が挑む難曲揃いのプログラム

C)Ayane Shindo
 30代半ばながら、東京都交響楽団で10年以上のキャリアをもつホルン奏者の岸上穣が東京オペラシティのB→Cに出演。前半では、なんとナチュラルホルンも披露する。

「オケの生活に慣れてきて将来を考える余裕がでてきた頃に、山形交響楽団のブラスセクションが古楽器で演奏しているのを知って、面白いし羨ましいなと。ナチュラルホルンに可能性があると思ったんです」

 選曲もユニークで、まずバッハが3曲。神奈川フィルの元ホルン奏者で現在は売れっ子アレンジャーの大橋晃一編による「管弦楽組曲第2番」からの4つの楽章(岸上の妻がフルート奏者で、家に楽譜があるのを見て発案)、楽器店の楽譜の棚をしらみ潰しに探して見つけた、コダーイがチェロとピアノのために編曲したコラール前奏曲。オリジナルでホルン独奏のオブリガードが登場する「ミサ曲 ロ短調」のバスのアリア〈主のみ聖なり〉では、バッハ・コレギウム・ジャパンの公演にも参加している加藤宏隆と共演。そして、近代フランスのシャブリエもナチュラルホルンで吹くのが実に興味深い。

「グザヴィエ・ロト指揮のレ・シエクルと共演させていただいたことがあって、その時に吹いたのがこの曲だったのです。ただ当時は学生でしたし、モダンホルンだったんですね。今回はナチュラルホルンでその時の経験を思い出しながら演奏したいと思っています」

 一方、後半に並ぶコンテンポラリー作品は、無伴奏の池辺晋一郎とノルウェーのベルゲ、そして指揮者としても人気のあった英国のナッセンの協奏曲と、これまたバラエティに富んでいる。

「自分の好みなんでしょうけれど、現代曲でもアクティブな音楽が好きなんです。池辺先生の曲は『春の祭典』のような高揚感を感じさせてくれるクライマックスが聴きどころで、ベルゲはメロディラインこそ分かりやすくて音楽作りはしやすいのですが、上吹き・下吹きの概念を超えないと吹けない難曲なのです。ナッセンもホルンの枠を完全に超えてしまっていて、これまでのホルンとは別次元に入っています。でも、めちゃくちゃカッコいい(笑)。都響でも共演させていただきましたが、とんでもない頭の持ち主ですね」

 会場でお聴きいただければ実感していただけると思うが、後半は体力が持つのかと心配になってしまうほどの超絶技巧の難曲だらけ。
「今の自分の年齢が技術、体力、知識とバランスのとれたいい時期なのかなと。これ以上、演奏に負荷がかかる難しいプログラムは、今後あり得るのかなと思うほどです」

 ピアノの共演は遠藤直子。東京公演はすでに残席僅少だが、今回は彼の地元、京都でもB→Cが開催されるので楽しみだ。
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2020年10月号より)

B→C バッハからコンテンポラリーへ 岸上 穣(ホルン)
2020.11/14(土)14:00 青山音楽記念館 バロックザール
問:エラート音楽事務所075-751-0617 
https://erato.musical.to/wp/

2020.11/17(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
*10/6(火)チケット追加販売開始
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp