マリンバの表現力と芸術性を開拓し続ける達人の現在
今では信じられないかもしれないが、マリンバは50年ほど前まで芸術的な表現ができる“独奏楽器”とみなされてこなかった。合奏の一部ならともかく、独奏の場合は軽い曲目を演奏するのが当たり前だったのだ。そんななか、三善晃などの作曲家と協働してシリアスなレパートリーを生み出し、メーカーと協働して楽器の可能性を広げ、国内外の大学で優秀なマリンバ奏者を数多く育成。そして何より、圧倒的な説得力をもつ演奏によって、現在のマリンバのイメージを築きあげたのが他ならぬ安倍圭子であった。いま現在も、御年83歳という年齢を感じさせぬパフォーマンスを披露する安倍が、およそ2年半ぶりに東京文化会館の舞台に立つ。
共演者には信頼を寄せる実力派の弟子たちと、大ベテランのピアニスト今井顕をむかえ、作曲家としてマリンバの新たな魅力を切り開き続けてきた新旧の安倍作品がプログラムに並ぶ。例えば、1980年代に書かれた「竹林」「遥かな海」など、マリンバのレパートリーとして世界で定着している独奏曲が、安倍自身によって後年編み直された二重奏版、はたまた彼女が即興的にパートを加える三重奏版で演奏されることで、安倍の代名詞的作品を聴き慣れた方であっても新鮮な気持ちで自作自演に立ち会えるはず。他にも環境問題に音楽で真摯に向き合ったマリンバ小協奏曲や、2010年代に書かれた近作まで披露される。この一夜で安倍が成し遂げてきた業績の一端に触れてほしい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2020年10月号より)
2020.10/16(金)19:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp