永峰高志(ヴァイオリン)

巨匠ヨアヒムの愛器で紡ぐ至高のロマン

C)Michiko Yamamoto

 N響で首席奏者等を35年間務めた後、国立音大の教授、ソロ、室内楽、指揮と多方面で活躍中の永峰高志。彼はこのほど、ヴァイオリンの歴史的巨匠J.ヨアヒムが愛奏したストラディヴァリウス「Joachim, 1723」を用いたアルバム『ロマンス』をリリースした。巨匠と同時代の作品を、当時の残り香を湛えた響きで聴かせる、興味津々の一枚だ。

 まずはこの名器について。
「国立音大が所有する楽器で、貸与されて4年ほど経ちます。普通の楽器よりサイズが大きく、もともと硬めの音ですが、音のスピードが速くてレスポンスがよく、音に力強さや主張があります」

 本ディスクには「ヨアヒムが友情の核となったシューマン夫妻とブラームス、そして自身の作品」を収録。前半は「ロマンス」が3曲並ぶ。
「まず弾きたかったのがクララ・シューマンの『3つのロマンス』。これはヴァイオリンのメロディも綺麗ですが、日本人唯一のベーゼンドルファー・アーティスト、久元祐子さんのピアノも聴きどころです。彼女はモーツァルトが得意で音が美しく、ピアノの前奏で始まるこの曲は特に素晴らしい。次のヨアヒムの『ロマンス』は、ブラームス等の協奏曲のカデンツァの印象とは違ってフレンドリーな音楽。ここでは彼がどんな曲を作ったのかを聴いてほしい。さらには有名なシューマンの『ロマンス』。私がとても好きな曲で、ヴァイオリンの艶を感じていただけると思います」

 後半はブラームスのソナタ第1番「雨の歌」。
「これも好きな曲です。第1楽章は巨匠風の遅い演奏になりがちですが、実はヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ。ですから私は速めのテンポで演奏し、葬送の曲でブラームスが『なるべく遅く』と述べた第2楽章と対照させています。第3楽章は私が思うブラームスのイジイジしたイメージ通りに進み、最後に救われる。今回はそうした表現をしたいと思いました」

 本作のもう1つの特徴は音の入口と出口にある。
「入口はDXD384KHz音源に対応するスペックを持つ、高解像度マイクロフォン。特別な銅を使ったオールハンドメイドのもので、高域が完全に上まで伸びます。そして出口は『ハイレゾ配信』『CD』『アナログ・レコード』の3種類。中でも力が入っているのは、子どもの頃から作るのが夢だったレコードです。『180g重量盤LP』で数量限定。内面の表現など演奏の面白さがよりわかると思います」

 いずれ本作と連動したコンサートも行う予定だが、彼は現況に即した発信もしている。
「Facebookに『音楽をする意味』を書きました。これは音楽、文化によって『冥土の土産のお手伝いをしたい』といった主旨。もし、この音楽を“心の宝石箱”の片隅に入れてもらえると、僭越ながら嬉しいですね」
 様々な思いのこもった本ディスク、ぜひ耳にされたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年9月号より)

CD『ロマンス』
マイスター・ミュージック
MM-4079
¥3000+税(CD)

LP『ロマンス』
MMLP-9001
¥7000+税
(180g重量盤LP)