コンサートのある日常が戻ってきた!〜東京芸術劇場が、自粛後初となるコンサートを実施

 ああ! やっと戻ってきた。
 6月18日夜。池袋の東京芸術劇場コンサートホール。東京都内の大規模ホールの先陣を切って、音楽会が再開した。新型コロナウイルス感染拡大に伴って政府がイベントの開催自粛を要請したのが2月26日。クラシックの公演も次々に中止・延期となり、東京芸術劇場のコンサートホールでの主催公演が行われるのは、2月22日に上演された《ラ・トラヴィアータ》以来ほぼ4ヵ月ぶりだという。通常時の満席1,999席のホールに100名のみと、大幅に入場を制限しての開催ではあるが、新たな第一歩を踏み出してくれたのが、ともかくうれしい。

「ナイトタイム・パイプオルガンコンサート」より
(C)Hikaru.☆

 この日行われたのは恒例のナイトタイム・パイプオルガンコンサート(出演:今井奈緒子)。チケットは4月29日から発売されたが、まもなくいったん販売休止。公演8日前の6月10日に再発売したところ、限られた席数のチケットはまたたく間に完売したという。場内では笑顔のお客さん同士のこんな会話も。
「お久しぶり! よく買えましたね。30分ぐらいで売り切れたようですよ」
「うん。家で仕事しながらパソコンでね」
「これからあちこちで始まりますね。席が少なくなるから、チケットの予約、頑張らなきゃ!」
 みんなコンサートに飢えている。

今井奈緒子
(C)Hikaru.☆

 さて、気になる感染対策。節度ある大人向けの対応という印象だった。
 検温用のサーモ・カメラや、フェイス・シールドを装着したスタッフに迎えられると、現状の深刻さを再認識せざるをえないが、コンビニやスーパーでもおなじみとなった、列の間隔を空けるマーキングは最小限にとどめられ、「ソーシャル・ディスタンス」については原則として来場者の自主性に委ねられた格好。それでもみなさんしっかりと、周りと距離を空けている。入場制限でスペースに余裕があったためでもあるだろうが、もはや新たなマナーとして十分に定着しているのだろう。かなりスムーズ。マスク着用はもはや常識。

コンサートホール入口にはサーモ・カメラを設置
(C)Hikaru.☆

 チケットの半券を自分でもぎり、カウンターに置かれたプログラムを各自でピックアップして客席内に入ると、座席には市松模様状に、1席おきに「ご使用をお控えください」のシールが貼られている。しかもこの日使用していたエリアだけでなく、すでに1階席から3階席まですべての座席に。当面はこれでやっていくのだという覚悟のようなものを感じた。座席カバーと色を揃えたシールがやや目立たないと感じたのか、「貼紙だけじゃ座れちゃうじゃない!」という声も聞かれたが、「座れる」ではなく、「座らない」のが新しい生活様式だということを肝に銘じておきたい。

プログラムはカウンターに置かれ、各自でピックアップ
(C)Hikaru.☆

座席には「ご使用をお控えください」というシールが貼られている
(C)Hikaru.☆

 広いコンサートホールいっぱいに響く荘厳なオルガンの響きに身を委ねる。数ヵ月ぶりの感覚。演奏が終わると熱心な拍手が起こった。席を間引くことで、もっと寂しい感じになるのかと思ったが、この日の聴衆100人という制限でも、私の場合、思いのほか違和感はなかった。なお、劇場1階のエントランスには「東京版新型コロナ見守りサービス」のQRコードが掲出されており、希望者はスマホから登録すると、後日、万が一ウイルス陽性者が出た際には、メールで知らせてくれる。
 音楽ファンが待ちに待った、コンサートのある日常。ウイルスとの戦いはまだまだ続くが、この前進が再び遮られないことを祈りたい。そのために、私たち聴衆も自分にできることをひとつずつ地道に守っていかなければ。と、あらためて気を引き締め、久しぶりの心地よい余韻を噛みしめながら、寄り道せず、すいている電車を選んで帰途についた。
取材・文:宮本 明
(2020年6月18日 東京芸術劇場 コンサートホール)

東京芸術劇場
https://www.geigeki.jp
東京芸術劇場ナイトタイム・パイプオルガンコンサート
https://www.geigeki.jp/performance/nighttime_r02/

「ナイトタイム・パイプオルガンコンサート」より
(C)Hikaru.☆