ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

世界が注目するインキネンが打ち出す新たなベートーヴェン像

ピエタリ・インキネン
C)堀田力丸

 今夏にはバイロイト音楽祭登場が予定されているインキネン。いきなり新制作の《指環》全曲という衝撃のデビューだが、日本フィルとの《ラインの黄金》で私たちはもう3年も前にその実力を確認している。総本山もいよいよ放っておけなくなった、というところか(その後、事務局の発表があり、今年の同音楽祭はコロナの影響で中止。インキネン指揮による新制作の《指環》は2022年に持ち越された)。

 さて、日本フィルとは昨秋よりベートーヴェンの生誕250年を記念した交響曲ツィクルスが始まっている。インキネンらしいスマートな解釈に、首席客演時代から数えれば10年を超える共演で培ってきた両者の当意即妙の応答が彩りを添えている。

 6月頭の第5弾は、交響曲第2番と第5番のカップリング。2番は難聴に起因する、いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期の作品だが、古典派の枠組みを打ち破ろうとする野心、機智と躍動感にあふれた音楽だ。5番「運命」は隙のない構築性に加え、“苦悩を克服して歓喜へ”至る交響曲のドラマ性を示し、続くロマン派の作曲家に大きな影響を与えた。もちろんインキネンのことだから、ありきたりなイメージに引きずられない新鮮なアプローチをそれぞれに施しつつ、筋も通してくれることだろう。

 このシリーズでは、ロマン派、そして国民楽派のシンフォニスト、ドヴォルザークの佳品がたびたびカップリングされているのもユニークだ。この日はプラハの宗教的自立を主導した国民的英雄を讃える序曲「フス教徒」が取り上げられる。インキネンはプラハ響の首席指揮者も務めており、本場のオケを相手に磨いたセンスを十全に発揮してくれるはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年5月号より)

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、本公演は中止となりました。(5/13主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

第721回 東京定期演奏会 
2020.6/5(金)19:00、6/6(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://www.japanphil.or.jp