齋藤真知亜(ヴァイオリン)

真摯に突き詰めた“対話”がここにある

C)H.Ikezawa
 NHK交響楽団のヴァイオリン奏者・齋藤真知亜。昨年末には初の著書『魔境のオーケストラ入門』を上梓するなど、オーケストラ以外でも多様で活発な活動を展開する彼の、2019年にHakuju Hallで開いたリサイタルを収録したCD『鏡の中の鏡』がリリースされる。

 リサイタルは1999年から続くシリーズの記念すべき20回目。アルバム・タイトルは収録曲のA.ペルトから採られているが、リサイタル自体には「Dialogue」=対話のタイトルが付けられていた。

「作曲家との対話、作品との対話、共演者との対話、お客様との対話。さまざまな対話です。リサイタル・シリーズには、『Viologue』(ヴァイオリンとの対話)、『Biologue』(生命との対話)という造語のタイトルを付けてきたのですが、2013年から、素直に『対話』に戻りました。リサイタルは1対1で音楽と向かい合う場。毎回、プログラムを考えチラシを作り、足を運んで聴いていただけるお客様に感謝する。謝礼を受け取って演奏するだけでは絶対にわからない、大きな財産になっています」

 そのリサイタルシリーズそのものの趣向として、作曲家名のアルファベット順というユニークな選曲。結果としてこのCDは、頭文字がO、P、Qの、オッフェンバック、ピアソラ、ペルト、クヴァンツが並ぶバラエティに富むプログラムとなった。

「もちろん、それぞれの楽曲に合ったスタイルの演奏を意識しています。しかし共通するのは『ヴァイオリンの素晴らしさを伝える』ということです。機会があるごとに申し上げているのですが、僕はその作品を利用して自分を押し出すのは大嫌いで、そのようなスタンスの演奏家には、嫌悪感すら感じます。考えているのは、『こう弾くと評価される』ではなく、『こう弾くと作曲家が喜ぶ、楽器が喜ぶ』ということです」

 共演のピアノを作曲家の鷹羽弘晃に委ねたのも、そんな楽曲の見方に自分と共通するものを感じるからだという。
「演奏効果よりもまず作品の見せ方を考えるタイプです。彼との舞台上でのやり取りはまさに『Dialogue』。とても楽しい対話で、作曲者も喜んでくれるのではないかと思います」

 心の響きを伝えたいと訴える。
「ぜひイヤホンでなく、スピーカーから聴いてください。耳から入る音だけなく、身体全体に響く振動を感じてください。そうすれば僕の心の響きが、きっとあなたの心を震わせるはずです」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年4月号より)

CD『鏡の中の鏡』
マイスター・ミュージック
MM-4075 ¥3000+税
2020.3/25(水)発売