CFXで解き明かすプロコフィエフのフランス芸術への憧憬
プロコフィエフが完成させた9曲のピアノ・ソナタを一流メーカー6社のピアノで演奏するという、上野優子による意欲的なシリーズ(全6回)が第3回を迎える。第1回のスタインウェイではソナタの第1、2番を、第2回のファツィオリでは第3、4番を弾いた。今回はヤマハが世界に誇るピアノCFXを用いて、第5、7番を取り上げる。
「プロコフィエフは、ピアノという楽器がほぼ完成した時代を生きましたが、激動のロシアから一度亡命してまた帰国するという、稀な経験をした人物です。彼が生涯にわたって書き続けたソナタを、個性あふれるピアノによって取り上げていくことで、作曲の変遷や楽器の響きの違いを味わっていただけるのではないかと考えています。
今回は「芸術はパリとともに」というサブテーマを掲げ、プロコフィエフが亡命先のパリで書いた第5番を弾きます。当時のロシアは音楽芸術的には後れをとっていて、中流階級以上の人はみなフランス語が話せて、フランスの芸術に対する憧れを強く持っていたそうです。プロコフィエフもまた、フランスの洗練された美的感覚にふれ、そこで得られた要素を、このソナタに取り入れていると感じます」
第7番はプロコフィエフのソナタのなかでも最も人気の高い作品だが、上野は二つのソナタの間に、「思考」という内省的で叙情的な作品もプログラミングした。
「彼がソビエトに戻るか戻らないかという境目にあった時期に書いたもの。個人的な迷いの感情や、ロシア語を感じさせるイントネーションが3つの小さな音楽の中に表れていて、興味深い作品です。ヤマハのピアノは、ピアニッシモがとても美しく、リリカルで繊細な響きを表現できます。CFXはそれに加えて、中低音の響きの支えが素晴らしく、今回の作品を際立たせてくれると思います」
コンサートは、パリにちなんでショパンの作品で幕を開ける。
「何かを悟ったように美しい『舟歌』を取り上げます。そんなショパンに憧れていた人物で、プロコフィエフの先生でもあったのがリャードフ。彼の『3つの小品』に続けて、リャードフが才能を見出したスクリャービンへとつなぎます。『幻想ソナタ』はスクリャービンがパリ訪問中に書いた作品です。『焔に向かって』は、その青白い焔を思わせる色彩感が、プロコフィエフの世界へと導きやすいのではと選曲しました」
第2回に続き、ライヴ録音のCDリリースも予定している本公演。美しくも高揚感に満ちた一夜となりそうだ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2020年3月号より)
*新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、本公演は延期となりました。(2/28主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
上野優子ピアノリサイタル プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ
プロコフィエフにはどのピアノがお似合い? 第3回 ヤマハ
2020.3/19(木)19:00 すみだトリフォニーホール(小)
問:新演03-6222-9513
http://www.shin-en.jp