ロベール・ルパージュ(演出・構成)

斬新な手法を駆使して表現する「一大叙事詩」を完全版で上演

撮影:岡本隆史

 カナダの演出家ロベール・ルパージュといえば、MET《ニーベルングの指環》やシルク・ドゥ・ソレイユのサーカスなど、最新のテクノロジーを駆使する幻想的な舞台で知られる。彼の演劇における代表作のひとつ『HIROSHIMA 太田川七つの流れ』が、1995年の五部作版上演以来25年ぶりに、上演時間7時間となる七部作の完全版として、2020年7月にBunkamuraシアターコクーンに凱旋する。

「広島・長崎は日本にとってのみならず、人類全体にとっての悲劇でした。あそこで示されたことは、人間同士の対立の究極が、どれほど黙示録的な光景を生むかという事実を、人類に見せつけたことではなかったでしょうか。
 しかし、津波でもそうでしたが、大きな悲劇が起きたときに、日本では特有の模範的な共同体的感覚が生まれて、人々がそこから立ち上がる、ということがあると思います。物語は、1945年の終戦直後から20世紀の最後、1999年までいくのですが、音楽もそれに従って進化・変化していきます。広島という一点から発生して、そこから7つの支流に川が分かれるように、エコーのように、世界の7つの方向に話が分岐していくのです。
 これはポリティック(政治的)な作品ではありません。ポエティック(詩的)な作品なのです。私が扱いたかったのは、原爆で一度は壊滅状態になり、そこからどのように世界を再構築するかということです。そこで重要なテーマとなってくるのは、他の場所の、他の悲劇を認知することから、私たちは学ぶのだということなのです」

 ルパージュが広島を取り上げたのは、92年に初めて同地を訪れた際の、想像以上に街が復興していたことへの驚きがきっかけだったという。長崎にも滞在したが、広島のように原爆のイメージと直結するのではなく、貿易などで知られる豊かな歴史的・文化的背景の印象が強すぎることから、題材にすることは見送られたそうだ。

 この舞台を作る上でルパージュが取った方法は、他に例を見ないユニークなものである。
「私が最終判断をしますが、台本は俳優たちとともに作り上げました。彼らは私が大筋を考えた台本を、さまざまな国の言葉で実際に書くライターでもあり、その時々に即興を入れたり、自分の個性や国籍や文化を持ち込んで、作品をつくりあげたのです。
 音楽面では、《蝶々夫人》の抜粋など、既存の音楽の挿入もありますが、ほとんどの音楽的モティーフは、作曲家・パーカッショニストのミシェル・F・コテによるオリジナルのものです。それを実際に舞台上で演奏するのは久高徹也(和太鼓)です。
 これは言わば、パーカッションでアクセントを与えられた演劇です。日本の能や歌舞伎のように、俳優の台詞と同時に演奏があります。それに少しフリージャズの要素が加わったような感じですね」

 最後に、ジャンルを越えたあらゆる舞台の魔術師としての秘訣を教えていただいた。
「目で聴いて、耳で見ることを、常に心掛けています。私は映像を多用していますが、原体験は音と言葉なのです。私は作曲はしませんが、音楽のセンスは常に持って仕事をしてきたつもりです」

 すべての音楽好きにとって注目すべき、必見の舞台となりそうだ。
取材・文:林田直樹
(ぶらあぼ2020年1月号より)

HIROSHIMA 太田川七つの流れ
2020.7/10(金)、7/11(土)、7/12(日)各日13:00 Bunkamuraシアターコクーン
2020.3/7(土)発売
問:Bunkamura 03-3477-3244 
https://www.bunkamura.co.jp

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