2022年のデビュー20周年に向けて新たな一歩
10歳の時からロシア人の名教師ヴェラ・ゴルノスタエヴァ女史の教えを受け、2002年のチャイコフスキー国際コンクールで女性として、またアジア人として初めての優勝を飾って以来、上原彩子といえばチャイコフスキーやラフマニノフなどのロシア音楽を得意とするピアニストというイメージがある。だが最近はフォルテピアノに興味を持ち、自宅にも楽器店から借りた1台を置いて熱心に練習に取り組んできた。「常に新しいことに挑戦することが自分にとって大事」と語る上原の、近年の大きな取り組みである。
19年1月には東京文化会館小ホールで古楽の有田正広(フルート)と共演し、モーツァルトやブラームスの作品を演奏している。この時は1800年代のレプリカのフォルテピアノとモダンピアノを弾き分け、前半のモーツァルトをフォルテピアノで演奏した。
「最初は古楽器の人たちが音楽をどういう風に解釈しているのか、楽譜をどのように読んでいるのだろうかということに興味を持ったんです。有田先生のところにあるいろいろな楽器を弾かせていただいているうちに、フォルテピアノがとても新鮮でおもしろいと感じるようになりました。フォルテピアノはしっかり力を抜かないと良い音が出ないんです。そんなタッチを勉強していくうちに、モダンピアノでモーツァルトを弾くときにも軽い音が出せるようになってきました」
本来の持ち味であるスケールの大きさ、力強さに加え、以前より音の幅が広がったことで、モーツァルトも自信を持って演奏できるようになった。19年8月に飯森範親&日本センチュリー交響楽団と共演したモーツァルトのピアノ協奏曲第19番はフォルテピアノで演奏した。指揮の飯森によれば、音量の小さなフォルテピアノでの演奏のため、オーケストラも上原も互いによく聴き合って、溶け合うような曲作りができたという。
20年3月、東京オペラシティ コンサートホールでのリサイタルは、得意のチャイコフスキーに、新境地を開きつつあるモーツァルトの組み合わせである。演奏するのはモダンピアノだが、フォルテピアノの演奏から学んだものを存分に発揮する機会となるだろう。
「幼い頃から育んできたものに最近自分で開拓してきたものとが混ざり合った、自分なりの音楽の宇宙を聴いていただけると思います」
ゴルノスタエヴァに学び、長年慈しむように弾き続けてきたチャイコフスキーとの組み合わせ。どんな相乗効果が生まれるのか、大いに楽しみである。
取材・文:千葉 望
(ぶらあぼ2020年1月号より)
2022年デビュー20周年に向けて Vol.1
上原彩子 ピアノ・リサイタル
2020.3/25(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp