山中惇史(ピアノ/作曲/編曲)

僕は作曲家でもピアニストでもなく、ひとりの音楽家でありたい

C)進藤綾音

 2019年11月28日、浜離宮朝日ホールでピアノ・リサイタル「刻印された時、風景」を開く山中惇史。東京藝術大学音楽学部の作曲科、修士課程作曲専攻を修了し、29歳の現在は器楽科ピアノ専攻に在学中。「3度目の大学生活です」と笑う。来年をめどにパリへ留学、さらにピアノの腕に磨きをかけるという。

 「あなたは作曲家ですか、ピアニストですか?」との問いかけにしばしば出くわすが、「自分が何であるかは考えず、ただ音楽家でありたい」と願っている。今後は年1回のペースでリサイタルを開くと決めたが、「あくまでプログラムありき。『これで行こう』という柱や流れが見つからなければ、できないかもしれません」と、こだわりをみせる。今回は、昭和の大アーティスト、岡本太郎(1911〜96)に触発されて書きおろす「太郎の時」3部作(プロムナード/太郎の赤/ジャズの時)世界初演の前後にJ.S.バッハ、ショパンを置いた前半、そして後半にムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を配し対比させる。

 「岡本太郎を知ったきっかけは、作品ではなく発言集です。東京・南青山の記念館を訪れると、強烈な赤が目に飛び込んできました。パネルに記された『芸術には過去も未来もなく、今しかない』の言葉に触れ、自分もこういう気持ちで作曲、演奏したいと思いました」。岡本がピアノをたしなみ、ジャズを弾く瞬間にも「今しかない」と興じていたと知り、専門か否かに関係なく今を生き続ける姿勢に共感、「ちょうど『展覧会の絵』を弾きたいと考えていた自分の気持ちにも合致したのです」。ムソルグスキーの名曲を象徴する「プロムナード」を自作の題名に取り込む一方、単独で取り出し、リサイタルの冒頭に弾くことも考えている。

「『プロムナード』の拍子からして当時の作曲一般のセオリーからかけ離れていて、ムソルグスキーが面白がりながら書いていると、直感しました。僕が作曲する際、色々と勉強して書くわけですが、時にはそれが邪魔になることもあります。ムソルグスキーはそうしたものを全部かなぐり捨て『展覧会の絵』 を完成したのが素晴らしいです。有名な赤ら顔の肖像画の印象が強すぎ、長くヘッポコ作曲家と誤解していたのですが、自筆譜を見て、僕のムソルグスキー像は一変しました。真剣に音楽と向き合い、完全にわかって書いていたのです。岡本太郎にも通じる真剣勝負をお伝えするためにも、ホロヴィッツらの手が加わっていない原典版で演奏します」

 興味深いリサイタルになりそうだ。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2019年11月号より)

山中惇史 ピアノ・リサイタル 〜刻印された時、風景〜
2019.11/28(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:テレビマンユニオン03-6418-8617 
http://www.tvumd.com/