クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)

ドイツの名ソプラノが紡ぐ言葉とハーモニーの宇宙

©Marco Borggreve

 周囲を包み込む温かさと瑞々しい透明感を併せ持つ美声で、欧米のオペラや宗教作品の檜舞台で活躍するドイツの名ソプラノ、クリスティーナ・ランツハマー。13年ぶりとなる来日を果たし、「自分の本能から生まれた」というバロックから20世紀へ、イギリスからアメリカ、母国ドイツへと時空を超えてゆく歌曲のプログラムを披露する。

 ミュンヘン出身。2004年のライプツィヒ国際バッハ・コンクールでファイナリストとなるなど実績を重ね、シュトゥットガルト歌劇場などで主要な役回りを演じる一方、宗教作品のソリストとしても活躍。ブロムシュテットら名匠からの信頼も厚い。特に、ドイツにおいては“名舞台に彼女の歌声あり”と言っても過言ではない。

 今回の選曲で「私が特に魅了されている詩に基づく作品をまず念頭に置いた」と明かすのが、コープランド「エミリ・ディキンスンの12の詩による歌曲集」からの8つの歌曲。「アメリカの最も偉大な女性詩人であるディキンスン自体、とても気になる存在。私の心に深く響きます。彼女の詩が、どれほど作曲家の心を捉えたのかは、これらを非常に難易度の高い歌曲に仕立てた点からも、明白です」と説明する。

「かなり民謡風の特徴がある一方、現代的な響きを持ち、半音階と多調によって、世界が拡張されています。作品の多くが、同じ音楽的モティーフやメロディを用いたリフレインのように始まり、終わるのです。コープランドは、自然で音楽的なデクラメーション(抑揚や韻律を踏まえた表現)を駆使し、詩の魅力を見事に表現しています」

 ここへ対置したのが、シューマン「リーダークライス op.39」。
「コープランドに匹敵する力強い作品は? と考えた時、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩による名歌曲集が浮上したのは、論理的な帰結でした。この作品は、 彼の創作の中でも“最もロマンティック”だと作曲家自身も語っています」

 さらに、イギリスのパーセル、ドイツのヨハン・フィリップ・クリーガーと、バロック時代の作品も。
「英語とドイツ語による情緒豊かな歌曲は、魂と精神を見事に表現しており、このプログラムに美しく、見事なシンメトリーをもたらします」

 共演するピアニストのゲロルト・フーバーは、名バリトンのクリスティアン・ゲルハーヘルとの名演で広く知られる。
「彼は、私にとって完璧な伴奏者。細やかで、極めて感受性の鋭いピアニストです。歌手と一緒に呼吸し、歌詞を口ずさんで演奏し、常に全力投球で、まるでピアノと一体化しているよう。初めて共演した時から、多くの言葉は必要ありませんでした。私たちは自然なエネルギー、音楽の感じ方といった点で互いに似通い、深く真摯な姿勢で繋がっています」

 そんな二人が形づくる、言葉とハーモニーの宇宙。ぜひ体感したい。
構成・文:寺西 肇
取材協力:紀尾井ホール
(ぶらあぼ2019年10月号より)

クリスティーナ・ランツハマー ソプラノ・リサイタル
2019.11/26(火)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp/