クン=ウー・パイク(ピアノ)

音符同士が愛し合う唯一無二の抒情小品集

(c)藤本史昭
(c)藤本史昭
 クン=ウー・パイクは、1946年韓国生まれ。82年以降パリを拠点に活躍する、アジア出身国際派ピアニストの先駆けであり、デッカやグラモフォン等でのCD録音も数多い、現役屈指の大家だ。昨年4月トッパンホールにおけるベートーヴェン&ブラームス・プログラムで圧倒的名演を残したパイクが、11月再び同ホールに登場。今度はシューベルト・プログラムを披露する。これは「温かく豊かなホールの響きに加えて、お客様との交信が非常に素晴らしかったので提案した」と語るスペシャルな一夜だ。
 しかも単なるシューベルト特集ではない。「即興曲集D899」全4曲、「3つのピアノ曲D946」全3曲、「楽興の時D780」からの3曲を並べ替えて再構成した、約80分ひと続きのいわば“連作小品集”。聴く者を感嘆させたCD『ブラームス小品集』のシューベルト編である。
「私は、有名曲をただ並べるのではなく、作曲家のマインドに入り込んで、よりよい作品を選ぼうと考えています。そして、例えばショパンの曲集なども同様ですが、こうした小品集は番号順に弾くのではなく、曲に対する正しい価値観を追求した上で、演奏順を考慮しなければならないと思っています。ましてシューベルトが、出版者の並べた曲順通りの演奏を意図していたとは思えません。そこで、この作品の次には何が来るべきか?を吟味し、自然な流れを作り出すことを意図しました」
 再構成のコンセプトは明確だ。
「今回企図したのは“歌曲のツィクルス”のような形。最初から最後まで歌曲的な側面やドラマ的なコントラストを有し、お互いが相乗効果を発揮するプログラミングです。以前私の先生はこう言いました。『プログラムを作るときには、音符同士が愛し合い、惹かれ合うものを選ぶべきだ』。今回もまさにそうです」
 パイクは以前、「ある作曲家に取り組む際には、全作品の楽譜を集めます」と話していたが、当然「シューベルトも然り」。つまり今回の演目は、膨大な作品群から独自の審美眼と感性によって選び抜かれた逸品集なのだ。実際に曲をパイク考案の順番通り聴いてみると、すべてが自然に耳に届き、全体が1つのドラマのように感じられる。
 彼はシューベルトの魅力をこう語る。
「抒情的でポエティカル。彼は私生活でも詩人に囲まれており、その音楽には詩に触発されたロマン的な美学があります。そして大きな魅力は、美しさを無理して引き出すのではなく、自然に差し出してくれるところです」
 類い稀な実力者ながら、主にピアノ通の間でばかり評価されてきたパイクの魅力を、ロマン溢れるこのリサイタルで、より多くの人に知って欲しいと願わずにはおれない。

取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2013年11月号から)

アジアの感性ー多彩な才能とその多様な可能性ー5
クン=ウー・パイク ★11月8日(金)・トッパンホール ローチケLコード32603
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com