松田奈緒美(ソプラノ)

ドイツ・リートの美しくも深遠なる世界を伝える

 深みある温かな美声と豊かな表現力を武器に、檜舞台で活躍するソプラノの松田奈緒美。五島記念文化賞 オペラ新人賞研修記念リサイタルで、ドイツ・リートをメインに据えたプログラムに挑む。「美しく深遠な世界を、たっぷりと味わっていただきたい」と松田。本場仕込みの繊細な言葉の扱いも、必聴だ。
 「“幽玄の美をたたえた歌の世界”とのイメージ」で組み立てたという今回の曲目。19世紀末〜20世紀の転換期に活躍したマーラー、シェーンベルク、ベルクを軸にしている。

「時代と音楽、芸術の結びつきに、ずっと興味がありました。これらを歌う際は自然と、絵や風景が頭に浮かんで…装飾性豊かで煌びやか、退廃的で妖しい魅力…どれも同じ時代の空気感を湛えています」

 かたや、「華やかで格好いい」と評するリストの歌曲から、お気に入りの2曲をチョイス。うち1曲は、イタリア語だ。
「リストには様々な言語の歌曲がありますが、どれも言葉と音楽の関係性が素晴らしい。オペラのアリアのように、劇的で繊細な表現を心がけています。言語が違えば技術的・音楽的に異なる、母音や子音の明るさや処理、音色など、独特の世界観を感じていただきたいです」

 今回は、世界的なリート伴奏の名手、ヴォルフラム・リーガーとの共演。
「ご一緒出来ることには、感謝と喜びで一杯。美しい音色と音楽性をとても尊敬しています。以前、ミュンヘンで少しご一緒した折、リハーサルなど一切なかったのに、本番では何も言わずともこちらの思いがすべて伝わり、とても感動的でした」

 彼女の持ち味の一つが、言葉一つひとつで繊細に変容する表現力。
「同じ単語であっても、ある場面では明るく、別の場面では暗く…例えば『涙』ひとつでも、嬉し涙や悔し涙、あふれる悲しみや愛情…いくつもの感情や表現ができます。その可能性は、無限ですね」

 歌心あふれる、沖縄県の出身。
「故郷の独特な魅力や豊かな自然、風土、音楽や芸能は、自分の血肉となっていて、音楽を通して自然と溢れ出てくるのかもしれません」

 もの心ついたころから歌が大好きで、ソプラノ歌手だった小学校の音楽教師に憧れ、高学年にして「オペラ歌手になる」と“宣言”したという。現在は沖縄県立芸術大学で後進の指導にも力を注ぐが「各自が持つ“宝物”を大切に。課題は難しいほど、達成した喜びも大きい」と学生にエールを送る。
 ドイツでは20世紀を代表する名ソプラノ、エリーザベト・シュワルツコップの薫陶を受けた。

「お手本に歌って下さった声の、まるで天から響いてきたかと思うほどの美しさ…。一瞬で、言葉の真意を表現する知性や、歌に対する真摯な姿勢へ、少しでも近づければ」

 そして、歌う上で最も大切にしている点をたずねると、「まずは揺るぎない技巧と感性、作品を深く理解する知性、情熱、そして何より美しい演奏に尽きるのではないでしょうか」と語った。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年8月号より)

五島記念文化賞 オペラ新人賞研修記念リサイタル
松田奈緒美 ソプラノ・リサイタル
2019.9/6(金)19:00 浜離宮朝日ホール 
問:アスペン03-5467-0081
2019.9/8(日)19:00 沖縄/パレット市民劇場
問:松田奈緒美リサイタル事務局080-1734-1571/リウボウプレイガイド098-867-8246
https://www.aspen.jp/