佐藤俊介(オランダ・バッハ協会音楽監督/ヴァイオリン)

音楽監督として“凱旋ツアー”を敢行

C)Marco Borggreve

 古楽とモダン、両方のフィールドで国際的に活躍する佐藤俊介が昨年6月、100年近い歴史を誇る名門アンサンブル、オランダ・バッハ協会の音楽監督に就任。総勢10人の器楽メンバーを率いて、就任以来初となる日本での“凱旋ツアー”を敢行する。「この“音楽”という世界を、どんどん探検していきたい」。俊英の言葉通り、大バッハの傑作を軸に、音の冒険を思わせるような、興味深いプログラムが組まれた。

「音楽監督に就いて、音楽・芸術面での方針やトレンドに直に触れられ、実績を具体的に作り上げる好機が巡ってきたと実感しています。曲の解釈、創造的な作品や共演者の選択、演奏会の在り方…そして、社会的な問題が山積する現代にあって、音楽の役割とは一体何なのか。芸術を大きく捉え、実践する可能性が出来て、日々の生活や考え方が変わりました」

 1921年の創設以来、バッハの宗教声楽作品を軸に、数々の秀演を産み出してきたオランダ・バッハ協会。

「メンバー各自の経験・知識・情熱は相当なもの。奏者として長い経験を持ち、中には自分で楽器を製作する人も…。音楽史や時代奏法についての深い知識も備え、トップクラスの職人集団と言えます。声楽と器楽を擁するアンサンブルなので、レパートリーも無限。自分は特に、声楽作品の解釈と弾き振りに力を入れたい」

 「バッハと他の作曲家との繋がり、そして、ひと固まりのアンサンブルとしてだけでなく、個々の奏者を披露できる曲目を心掛けた」という、日本公演でのプログラム。管弦楽組曲第1番や、チェンバロ作品からの復元稿によるヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ハ短調などバッハの作品に、佐藤曰く「友情と音楽的な関係が深かった」というザクセン宮廷楽団のコンサートマスター、ヨハン・ゲオルク・ピゼンデルの作品も。実は、バッハの無伴奏ヴァイオリン作品は、彼のために書かれたとの説がある。

 また、浜離宮朝日ホールでは、“原曲”を復元したヴァイオリン協奏曲ニ短調(第1楽章)を、現存するチェンバロ協奏曲稿(第2、3楽章)と併せて披露するユニークな試みを。さらに、ヴァイマル宮廷楽団時代の若きバッハが「新しい音楽に刺激を受け、根本的に作風を変えた」“イタリア体験”をもたらした、主君の甥ヴァイマル公ヨハン・エルンストのヴァイオリン協奏曲、そして、ヴィヴァルディの協奏曲「海の嵐」も演奏される。

 古楽奏者としては、時代を下って、近年はロマン派にも取り組む佐藤。
「音楽史や時代奏法を知れば知るほど、バロック以前から後期ロマン派まで、変化もありながら、一つの伝統であることが分かります。古楽の知識が、モダンの世界に根づきつつあるのは、嬉しいことなのですが、それが一般化される中で、人々は自分で考え、真新しい解釈をしなくなる危険性が大いにあります。自己満足せず新しい発見や演奏法をどんどん試していく、実験心を持ち続けたいのです」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年6月号より)

佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団
2019.9/30(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

  • La Valseの最新記事もチェック

    • ダヴィデ・ルチアーノ(バリトン)| いま聴いておきたい歌手たち 第12回 
      on 2020/01/17 at 03:20

      text:香原斗志(オペラ評論家) スターダムをのし上がりつつあるバリトンの大器 20世紀までは、バリトンなら彼だ、と太鼓判を押せる歌手がいつも、それも複数いたように思うが、ここしばらくの間、20世紀の生き残りであるような大御所を除くと、絶対的な指標になるようなバリトンがいなかったように思う。ダヴィデ・ルチアーノこそは、久々に現れた大器というべきだろう。 2017年8月、ペーザロのロッシーニ・オペ [&#8230 […]