ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)

プフィッツナーは、R.シュトラウスらと肩を並べるレベルの作曲家です

 45年にわたってウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務め、2016年8月に惜しまれつつ退任、ソリストとして、いっそう精力的な活動を展開するライナー・キュッヒル。「どこまでも音楽を追求し、自分の解釈で自由に弾いていきたい」と語る名匠が、選りすぐりの傑作を、艶やかな美音で紡ぐリサイタルを5月に開く。

「日本の方に親しみある曲を選びました。耳なじみのある作品も、奏者によってずいぶん弾き方が違うし、私も独自の美学に基づいて演奏します。特に、ウィーンの作曲家は“ウィーン風の音”で…。そんな解釈や私の“歌い方”、さらには作曲家が言わんとする本質を、ぜひ感じていただければ」

 国内外で何度も共演を重ね、「非常に息が合う」と厚い信頼を寄せるピアノの加藤洋之をパートナーに、クライスラーやサラサーテ、マスネなど珠玉の名旋律を。かたや、取り上げられる機会の少ない、ハンス・プフィッツナーのソナタが、もうひとつの軸。プフィッツナーは、晩年の一時期をウィーンで過ごすなど、同地と所縁は深いが、この作品はもう少し若い時代の作だ。

「クリスティアン・ティーレマンが指揮するウィーン・フィルとの共演で、彼の協奏曲を何度か弾くうち、すっかり魅了されて、この作曲家に非常に興味を持ちました。そして、やはり中身の濃いソナタも、ぜひ皆様に紹介したいと思いが募りました。彼はR.シュトラウスらと肩を並べるレべルの作曲家だと思います」

 コンマス生活の45年間を「音楽に対して、私は非常に頑固で…顔もそう見えるらしいですが、実際は虫も殺せません。妥協なしに一途に弾いてきました。若い仲間との意見の相違もありましたが、楽団に対して、自分なりに正直に接してきたつもりです。だから、オーケストラの中では、あえて独自の音色を出そうと意図したり、音楽創りに秘密を持ったりすることはありませんでした」と振り返る。

 退任から、約2年半。
「時間ができたので、自分のソロの練習に集中できるようになりました。でも、音楽に対する姿勢は、今までと全く変わりません。私の書斎には、収集した楽譜や本が山のようにあるので、ゆっくりと自分のための練習や勉強に取り組みたい。あと20年は(笑)、楽器に触れていたいですね」

 若い世代へ伝えたいこととは。
「相撲やテニスの世界と同様、演奏家の意識も、聴衆も変化しています。指揮者によっても、全く異なるでしょう。伝統を守るのは、非常に難しい。でも、どんな時代の演奏も、デジタルで気軽に聴くことができます。もし時間があれば、昔の録音も聴いてみてほしい。必ず発見があると思いますよ」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年5月号より)

ライナー・キュッヒル ヴァイオリン・リサイタル
2019.5/25(土)14:00 やまと芸術文化ホール(大和市文化創造拠点 シリウス内)
問:やまと芸術文化ホール チケットデスク046-263-3806 
https://www.yamato-bunka.jp/hall/