昨秋、《オール・リゲティ・プログラム》で話題を呼んだ東京フィル。この10月の東京オペラシティ定期では、没後1年を迎えるハンス=ヴェルナー・ヘンツェ特集という、またしても意欲的なプログラムが組まれた。
曲目はピアノ協奏曲第1番(独奏は小菅優!)と交響曲第9番。指揮は沼尻竜典、交響曲第9番の合唱は東京混声合唱団が務める。同じヘンツェの作品とはいえ、この両作品の作曲時期には半世紀近い隔たりがある。ピアノ協奏曲第1番は1950年、ヘンツェ24歳の年の作品。急→緩→急の古典的な協奏曲の枠組みのなかに独自性が盛りこまれた躍動感あふれる作品だ。1950年といえば戦後前衛音楽の名作が次々と書かれる“前夜”のような時期。ヘンツェを通して伝えられる時代の息吹を感じたい。決して難解で高踏的な音楽ではなく、むしろ開放的なダイナミズムに驚かされるのではないだろうか。
一方、交響曲第9番は1997年、71歳で書かれた作品だ。「第九」で合唱を要するとなれば、いやでもベートーヴェンを思い起こさずにはいられない。作品の題材となったアンナ・ゼーガースの小説『第七の十字架』では、ナチス政権下のドイツで強制収容所から脱走した7人の物語が描かれる。ではヘンツェ版「第九」が掲げるのは人類愛や理想主義なのだろうか? 答えは当日のコンサートホールにある。少なくとも起伏に富んだドラマティックな作品であることはたしか。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2013年9月号から)
第82回 東京オペラシティ定期シリーズ
★10月10日(木)・東京オペラシティコンサートホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 http://www.tpo.or.jp
チケット:ローチケLコード38682