俊才が王道で臨む、首都初の本格的リサイタル
弓新は、2011年のヴィエニャフスキ国際コンクールで特別賞を受賞し、一躍国際的な注目を浴びた俊英ヴァイオリニスト。すでに読響、東響ほか内外の多数のオーケストラと共演している。ちなみに弦楽器の申し子のような名前は本名。「弓は父方の祖父の出身地である佐賀県に多い姓。新は母が好きな建築家・磯崎新からとられた(弓新も建築好きとの由)」という。
桐朋学園を経てチューリッヒ芸術大学に留学。名教師ブロンに「基本技術とプロ根性を学んだ」後、鬼才グリンゴルツに「スコアを読むことを学んで、芸術的な方向性を開かれ」、現在はライプツィヒでモザイク・カルテットのヘーバルトに師事して「バロック・ヴァイオリンのレッスンも受けている」ほか、ベルギーでデュメイにも学ぶなど、理想的ともいえる研鑽を積んできた。
そして今年12月、「東京では初の本格的リサイタル」を行う。
「物凄く力が入っています。プログラムは熟慮を重ねた末、王道の演目になりました。決め手はピアノのナタナエル・グーアンとの相性。彼はピリスの弟子のフランス人で、デュメイのもとで知り合って気が合い、パリで一緒に小さなコンサートもやっています。とてもリリカルで、古典派が素晴らしいピアニストですね」
前半は、バッハの無伴奏ソナタ第3番とベートーヴェンのソナタ第5番「春」。まさに“王道”だ。
「バッハのソナタ第3番は、無伴奏の6曲の中では一番難しいのですが、長大なフーガが好きで、教会での演奏時によく弾いています。それにプログラム最後のシューベルトの幻想曲と同じハ長調なので、プログラムとしてのまとまりが生まれると考えました。『春』は、お馴染みの曲を聴いていただきたいのはもちろん、最近新たに学び直した作品でもあります。これまでベートーヴェンのラディカルな面を強調していたのですが、今はピアノとの調和に主眼を置いて自然に弾くことを重視しています」
後半は、ストラヴィンスキーの協奏的二重奏曲とシューベルトの幻想曲ハ長調。
「ストラヴィンスキーは、ナタナエルとぜひ一緒にやりたかった作品。ヴァイオリンを歌わせないという新しい側面が打ち出されていながら、新古典的な楽章もあり、また、終わりがハ長調なので、シューベルトにも繋がります。幻想曲は、今年パリで弾くために集中的に勉強しました。またナタナエルはCDに録音もしています。パガニーニの影響と思しきヴィルトゥオージティもあって、プログラムを締め括るのに相応しい立派な作品です」
彼は「リサイタルは音楽的な繋がりが大事。プログラム全体として聴いていただき、お客様にとって特別な時間になってほしい」と語る。話を聞くだに興味が募るこの公演。ぜひとも足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年11月号より)
2018.12/20(木)19:00 東京文化会館(小)
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp/