アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

ショスタコ「1917年」で極限の音楽体験を

アレクサンドル・ラザレフ C)堀田力丸

 日本フィルは常任指揮者ピエタリ・インキネンのもと好調を維持しているが、その水準を大きく引き上げた前任者アレクサンドル・ラザレフが登壇するとなれば、やはり特別な公演となる期待感が湧く。桂冠指揮者兼芸術顧問となっても、指揮台に立てば1秒も無駄にしないリハーサルで限界まで追求する“軍曹ぶり”は微塵も変わらず、ますます深みを増した名演を作りあげている。
 11月の東京定期は、ラザレフ公演ではおなじみのグラズノフとショスタコーヴィチの師弟作曲家の組み合わせで、各々の交響曲を取り上げる。ラザレフが情熱を注ぐグラズノフは、完成した最後の交響曲となった第8番。1906年(ショスタコーヴィチの生年)の完成で、グラズノフらしい古典的な作風に内面性や円熟味が加わった、熱気と気品を併せもつ懐深い大作だ。
 そして、ショスタコーヴィチはいよいよ第12番「1917年」が登場。3年前のこのコンビの第11番「1905年」は激烈極まりない壮絶さで、頭の中が真っ白になるような超名演だった。ロシア革命を題材とした作品で、第11番とは姉妹作的な内容をもつ第12番を彼らの演奏で聴けるとなれば、当然に別格の注目となる。ラザレフのショスタコーヴィチは読み込みの深さと表現の説得力が違う。今度の第12番は、ムラヴィンスキーの名盤もかくやという、日本で聴けるショスタコーヴィチの極北と言える演奏になる予感が漂う。作品の好き嫌いを超えて、とにかく“凄い音楽体験”をしたい人はすべて、この公演を体験せねばならない。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2018年10月号より)

第705回 東京定期演奏会
2018.11/9(金)19:00、11/10(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp/