加藤訓子(パーカッション)

究極のドラミングを求めて〜世界初!ライヒのドラミングを一人で多重録音

C)Michiyuki Ohba
 2011年のアルバム『kuniko plays reich』で、ライヒの「カウンターポイント」シリーズ3作品を打楽器用にアレンジし、多重録音によって新たなる作品像を聴かせた加藤訓子。その後もペルト、クセナキス、バッハを発表したLINN RECORDSから、新作をリリースする。ここで再びライヒに立ち返り、作曲家の初期代表作「ドラミング」を取り上げる。ボンゴ、マリンバ、グロッケンシュピール、ピッコロ、声、口笛を用いて12人で演奏する長大な作品を、今回も加藤がたった一人で演奏する多重録音。世界初の試みだ。
「きっかけは、愛知県芸術劇場がコミッション&プロデュースし、今年の初めに行った平山素子さんとのダンス・プロジェクト。『DOPE』の舞台音楽として、スティーヴ(ライヒ)に相談したところ、私がどうしたいのかすでにお見通しというご様子でした(笑)。『また君が一人で多重録音をして、ライヴではそのうちの一つのパートを演奏するんだろ? かまわない、やっていいよ』と、すぐにお返事をいただきました。今回のCDは、ステージに向けて1年かけて録音したマテリアルを生かし、新たにミキシングを行ったものです」
 ミニマル・ミュージックの先駆的作品である「ドラミング」は、反復とフェーズシフト(位相変化)によって紡ぎ出される特有の音響が魅力的な作品だ。ベルギー時代に何度となくアンサンブルで演奏してきた加藤だが、「奏者間で音を聴き取りにくかったり、距離やタイミングやコントロールによっては演奏が崩壊しそうになったりと、ライヴではジレンマを抱えることが多かった」と振り返る。
「勿論、アンサンブルのライヴで全てが再現されれば最高です。しかしながら、一人の奏者により質を揃え、多重録音すれば、より多くの問題を解決できます。前作から、ライヒの目指した音像が対位法なのだと実感し、この作品でも同様に構築すると、すべての音がクリアに再現され重ねられることにより、これまで聞こえていなかったハーモニーが浮かび上がるなど、驚くべきことが起こりました。エンジニアと協力しながら、顕微鏡を覗くように緻密な作業をし、万華鏡のような色彩感を生むことができたと思います」
 ライヒからも「きめ細かなディテールが驚くほど鮮明に聞こえる」と賞賛の声が届いた。
「一聴してシンプルに聞こえる音素材のすべてに、ライヒが選び抜いて組み入れたリズムとその展開、楽器の組み合わせとその推移、執念とも言える人間のエネルギーが込められています。それらを確実に再現できると、マジックのような不思議な効果が起こる。CDを聴いてくださる方には、耳を澄ませてそのエネルギーを受け取り、感覚を開くような体験を楽しんでいただきたいですね」
 11月にはCDリリース記念コンサートを行う。多重録音と生演奏とのライヴだ。聴覚が刺激される一夜となるだろう。
「録音とのアンサンブル・スタイルに工夫を凝らしたライヴです。私の生演奏を通じ、客席にはエキサイトしていただきたい。音を浴びる気分で、気楽にいらしてほしいです」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年10月号より)

ドラミング
2018.11/8(木)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:クニコカトウアーツプロジェクト080-5075-5038
http://www.kuniko-kato.net/

CD
『スティーヴ・ライヒ:ドラミング』
CKD613S (SACDハイブリッド盤)
LINN(輸入盤/東京エムプラス)
¥オープン