韓国「ビッグ3」とまで言われる実力派オーケストラを率いて
10月に韓国の光州市立交響楽団が2年振りの来日公演を行う。率いるのはこのオーケストラの芸術監督、金洪才だ。金は日本育ちだが、2000年以降に韓国でも指揮活動をはじめ、07年には蔚山(ウルサン)市立交響楽団の芸術監督になり、9年かけて韓国トップクラスの団体に育て上げたという。そして16年11月からは光州市でオーケストラビルダーとしての辣腕を振るっているのだ。だが意外なことに「13年に初めて客演したときには覇気がなくて『なんだ、このオケは…』と思いました」というほど、オーケストラの第一印象は芳しくなかった。転機はその3年後に訪れる。
「ソウルや東京で創立40周年演奏会があるのに、常任指揮者が続かず不在という状況で、また振ってほしいとお願いされたんです。当時は首席奏者がいない楽器もあったため、このタイミングなら変えられると思ってポストを引き受けました」
それから1年半の間、様々な困難に見舞われながらも、金は献身的にこのオケと向き合ってきた。その結果、今年の4月にはソウルに集まった韓国オケ18団体のなかで「ビッグ3」とまで言われるようになったというから驚きだ。短期間でこれだけの躍進をみせた秘密はどこにあるのだろうか?
「去年はプラハやリンツでも演奏しました。良いホールと良いお客さんによってオケが育つんです。良ければスタンディングオベーション、悪かったらブーイングをもらうような経験をしないと駄目なんですね。また、海外の一流オケの首席奏者をソリストに迎えたりすることで、団員が大いに刺激を受けているようです」
加えて指揮だけでなく運営にも時間を費やすことで、これほどの成果を上げたのだ。金はサラリと「やり甲斐がある」と述べるが、途方もない尽力の賜物であることは言うまでもない。
今回の来日公演では、韓国の民主化運動弾圧の悲劇・光州事件を題材にしたファン・ホジュンの「光がある町」で始まり、前回の来日公演にも足を運んでいたというピアニストの近藤嘉宏を迎えたラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」、ドヴォルザーク「交響曲第8番」という、自国と欧州の名作を組み合わせたプログラム。光州、ソウルで本番を経てから満を持して東京へ乗り込むスケジュールのため、完成度の高い演奏が期待される。
「前回の来日は客演でしたが、今回は音楽監督としての公演になるので少しだけプレッシャーもありますが、オケとは信頼関係も出来上がってきていますし、この2年弱の成果を皆さんにお見せしたいと思っています」
そう語る金の優しい笑顔は、成長への手応えを強く感じさせてくれるものだった。
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2018年10月号より)
韓国 光州市立交響楽団 日本公演2018
2018.10/12(金)19:00 パルテノン多摩
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp/